>  今週のトピックス >  No.1363
キャリアに与える介護の影響
●  介護による退職は約25%
  公的介護保険の創設、介護休業の法制化によって、介護者の負担は以前に比べて軽減に向かっている。しかし、相変わらず、介護の責任を負うことによって、キャリアを中断する、キャリアに影響を与えるという状況はなくなっていない。介護とキャリアの現状を報告したい。
  介護の開始によって、キャリアはどのような影響を受けるのか。介護開始当時、職業(自営を含まず)をもっていた介護者のうち、24.8%は当時の職業を変えたまたはやめている。転職が16.9%、退職が7.9%である。介護が理由とはいい切れないものの4人に1人が職を変えている。職を変えている割合は、女性の方が高く、26.8%、男性は19.1%である。
●  介護休業利用者はわずか1.5%
  介護はキャリアにある程度影響することが裏付けられた。しかし、キャリアを中断することなく介護を続けられるように導入された介護休業制度の利用状況はどうだろうか。介護開始時に雇用されていた介護者のうち、介護休業を利用しているのは1.5%のみであり、ほとんど利用されていない。介護休業を取得しなかった理由を尋ねると、複数回答で、(1)「家族や外部サービスを利用できた」が78.0%、(2)「休日・休暇を活用できた」が69.2%、(3)「職場に介護休職制度がなかった」が57.5%、(4)「職場に介護について相談できる人がいなかった」が49.6%、(5)「職場で取得した人がいなかったので情報がなかった」が38.6%、(6)「休業すると収入が減ると思った」が29.3%などとなっている。休業するほどではなかったためという回答が多いのだが、休業しようにもできなかったという回答も多い。「休もうにも休めなかったから、何とか凌いでいた」というのが現状ではないだろうか。
●  介護が勤務へ悪影響
  介護休業を利用しなかった場合、他に対応方法としては、(1)「年休の利用」(48.2%)、(2)「早退」(44.9%)、(3)「遅刻」(36.4%)、(4)「欠勤」(28.4%)と続く。休暇を介護に活用することも一法ではあるが、休暇は休養による心身の健康回復が目的であることから、休暇を介護に利用するのは望ましくない。また遅刻・早退・欠勤は勤務先の評価に悪影響を与えるため、キャリアにも影響するだろう。これらの延長上に退職や転職があると考えられる。
  これらを予防するのが、会社が行う介護支援制度である。こうした介護支援制度の有無について従業員はあまり認識していない。「介護休業制度」については15.8%が「ある」、53.6%が「ない」に対し、30.6%が「分からない」と回答している。短時間勤務制度も「ある」が12.2%、「ない」が60.3%、「分からない」が27.5%、フレックスタイムは「ある」が10.4%、「ない」が63.7%、「分からない」が26.0%という回答である。介護支援制度の導入率の低さも問題であるが、認知度の低さはもっと大きな問題といえる。
  介護休業制度やその他の介護支援は、企業にとって大切な従業員を失わないための重要な手段である。制度の導入を進めるとともに、その制度内容の告知にも注力する必要がある。
出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構「介護休業制度の利用状況等に関する研究」報告書
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2007.01.09
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