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フィリピン看護師・介護士の受け入れ延期
〜「開放」がさほど歓迎されない背景〜
●  フィリピン側はテロ防止法案の審議を優先
  この春から予定されていたフィリピンからの看護師・介護士の受け入れが、フィリピン側の批准がなされないために、来年にずれ込む見通しとなった。これは、「まさか」というよりは「やはり」という印象が強い。
  理由については、フィリピン側の上院議会(フィリピンでは条約批准は上院で行なう)においてテロ防止法案の審議が優先され、その直後に上下院選挙へ向けて議会が閉会されてしまったからだ。選挙に向けた与党内の政治的な思惑から、どうしてもテロ防止法案の成立を優先させたかったという見方もある。
  加えて、「フィリピン人看護師・介護士の受け入れ」を盛り込んだ今回の条約には、両国の関税撤廃項目が含まれており、その中に日本からの有毒・有害廃棄物も含まれているという憶測が流れ、フィリピン国内の環境保護団体が条約そのものの批准を阻止する動きを見せていることも背景にあるようだ。
  だが、それ以前の問題として、この看護師・介護士受け入れの中身自体が、フィリピン国内でそれほどの大きな歓迎をもたれていないという点も無視できない。
●  受け入れに際しての内容
  今年に入って、厚生労働省から受け入れに際しての指針案が提示され、省のHP上などでパブリックコメントの募集を行なってきた。その中身を見てみると、たとえば受け入れの6割(当初の2年間で600人)を占める介護士の場合、受け入れに際しては、
  (1)実務経験コース
  (2)養成施設コース
がある。(1)は日本国内の介護施設と雇用契約を結んで上限4年の就労研修を行ない、その間に介護福祉士の国家試験を受験して合格すれば滞在が延長されるというもの。一方、(2)は養成校に就学しながら、卒業後に介護福祉士の資格を取得してその後に就労するというものだ。
  入国の条件として(1)、(2)ともに4年制大学を卒業していること((1)については現地の介護士研修を修了していること)が必要である。フィリピンは他のアジア諸国と比較しても大学進学率は高く、教育レベルは高い。その点ではさほど高い障壁にはならないだろう。
●  受け入れ体制の見直しが必要
  問題なのは、(1)(2)ともに入国段階で6カ月間の日本語研修を受けなければならないということだ。フィリピン国民の教育レベルは高いものの、貧富の格差がとても大きい。(2)はもとより(1)のようにすぐ雇用契約が結べるとしても、6カ月間は猶予されてしまうということだ。となれば、ある程度の資産があることが前提になってしまうわけである。
  もっとも2年で1,000人規模であるから、まさに試験的な導入にすぎず、入国する層も限られてしまうことは当然予想できる。
  いずれにしてもフィリピンの一般国民からしてみれば、さほど関心が高くなる問題とは思われない。中心となるのはやはり関税撤廃の部分だろうが、有害廃棄物の流入が加速するなどというマイナスの風説が流れてしまえば、選挙前にことさら"やぶ蛇"になるような拙速な動きは控えたいのが自然だろう。
  個人的には、外国人の介護士の受け入れは、低待遇が目立つ介護現場において、労働条件を洗い直す一つの機会になるという点で評価をしていた部分がある。だが、労働市場の開放を歓迎するはずの受け入れ相手国に(国内問題とはいえ)「先送り」をされてしまうような状況では、もう少し受け入れ体制の練り直しを図った方がいいのかもしれない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.02.19
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