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不動産所得における「事業的規模」の判断
●  「事業的規模」である場合のメリット
  不動産所得の場合、その不動産の貸付が「事業的規模」であるか否かによって所得税の取り扱いが大きく変わってくる。
  「事業的規模」であると認められる場合には、以下の5つの特典がある。
◆事業専従者給与の経費算入が可能
◆65万円の青色申告特別控除が可能
◆業務用資産の取り壊し、除却など損失の全額が経費算入可能
◆賃貸料収入などの回収不能による貸倒損失がその年分の必要経費になる
◆延納に係る利子税で不動産所得対応分が経費算入可能
  事業専従者給与は一定の要件を満たせば、白色申告で50万円(配偶者は86万円)、青色申告であれば届け出た範囲内で相当な金額であれば経費として認められる。しかし不動産所得の場合には、そもそも「事業的規模」でなければ事業専従者給与の経費算入は認められない。これは青色申告でも白色申告でも同様である。
  また青色申告の不動産所得の場合、65万円控除の適用が受けられるのは「事業的規模」である場合に限られる。ただし「事業的規模」でない場合でも、10万円控除の適用は可能である。
  また事業用資産の除却損があるような場合、「事業的規模」でなければその年の不動産所得の金額までしかその除却損は計上できない。つまり除却損の計上で赤字にすることはできないのである。これが「事業的規模」であれば除却損を全額計上して赤字にし、他の所得と損益通算することもできる。
  他にも賃貸料収入などが回収不能になった場合や、延納に係る利子税を支払ったときなどに優遇措置が受けられる。
●  事業的規模とは
  ではこのようなメリットを受けるために必要な「事業的規模」とはどのような要件を満たせばよいのだろうか。一般的には、社会通念上次のような要素を総合的に勘案して判断することとされている。
◆貸付資産の規模
◆賃貸料の収入状況
◆貸付資産の管理に係る人員や施設の設置 など
とはいっても実際にはこれだけでは判断するのが難しいため、形式的に「5棟10室基準」というのが設けられている(所得税基本通達26-9)。
(1)貸間、アパートなどについては貸与することのできる独立した室数が概ね10室以上であること。
(2)独立家屋の貸し付けについては概ね5棟以上であること。
  上記の条件を満たしている場合には、「事業的規模」であるとされている。
●  「5棟10室基準」の注意点
  ただし、上記の「5棟10室基準」を判定する上で注意点が3つある。
  1つ目は物件を共有している場合である。この場合には、自分の持ち分だけで判定するのか、共有者の部分も合わせて判定するのか悩むところだが、実務上は共有者の持ち分も合わせた全体で判定できることとなっている。そのため自分の持ち分だけでは「5棟10室基準」に該当しないような場合でも、共有物件全体では該当しているのであれば、「事業的規模」と判定できる。
  2つ目は貸室と貸家の両方を所有しているときの判定の仕方である。この場合は貸室2室を貸家1棟として換算する。
  3つ目は駐車場の判定の仕方である。この場合は5台分を貸室1室に換算するのが一般的である。従って「事業的規模」となるためには、駐車場の場合5×10=50台以上が必要となる。
  上記は明文化された規定ではないが、「5棟10室基準」を判断する際の実務上の慣習として定着している。また「5棟10室基準」はあくまで簡便な判定方法であり、本来は実態に基づいて判断することになるため、たとえ「5棟10室基準」に該当しなくても、「事業的規模」に該当するという根拠付けができるのであれば、交渉の余地はあるだろう。
●  事業的規模のデメリット
  最後に「事業的規模」に該当した場合のデメリットを1つだけ挙げておく。それは事業税がかかるということだ。厳密には、事業税における「事業的規模」の基準は所得税と異なるため、両者は完全には連動しないが、「5棟10室基準」を満たせば、通常事業税がかかってくる。このあたりも判断の参考にしていただきたい。
(村田 直 マネーコンシェルジュ、今村仁税理士事務所)
2007.02.26
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