>  今週のトピックス >  No.1405
療養病床削減に向けた施策が本格スタート
〜厚労省が掲げる地域ケア整備構想〜
●  社会保障制度改編にゆれる医療現場
  2011年度末までに、全国医療機関における療養病床(療養目的で長期にわたって入院することを想定した病床)を、現在の38万床から15万床へと削減する──加速する社会保障制度改編の中でも特に過激といえる施策であるが、案の定、医療現場の戸惑いぶりが見え隠れする調査結果が発表された。
  それが、昨年10月1日までに厚生労働省が全国の療養病床を有する医療機関に対して行った「療養病床アンケート調査」だ。
  調査結果によれば、現状のまま療養病床として存続する予定であるとする回答が、医療保険対応型において63.5%あった。現状の医療保険対応型は25万床で、削減後の15万床がすべて医療保険対応になることを考えれば6割となる。つまり、この数字だけと比較すれば国の思惑との間にさほどのズレはない。
●  介護保険対応型の療養病床が抱える問題点
  問題なのは、将来的に全廃される予定である介護保険対応型の療養病床についても、存続予定としたものが34.3%にのぼっていることだ。さらに、療養病床全体で見た場合、国が想定している介護老人保健施設や療養病床への転換予定はわずか8.6%。仮に6割への削減が実現されたとすると、3割強つまり約11万人の療養患者が一般病棟経由で在宅へと戻らなければならない。
  3割強にのぼる介護保険対応型の存続予定という数字も、11万人の受け皿が「本当に整備できるのか」という現場の不安を反映したものといえるだろう。
  厚生労働省としては、この3月に地域ケア整備指針(仮称)を発表し、その中で医療機関や地域住民の不安を解消すべく(療養病床転換後の)モデルプランとともに将来の姿を示すとしている。さらに今年の夏から秋にかけて「地域ケア整備構想」をまとめ、療養病床の再編成に向けた支援措置事業に対して8.1億円の財政投入を行う予定だ。
●  療養病床削減後の受け皿は?
  果たしてこの構想がうまく進行するのかを考えつつ、先に示された「地域ケア整備構想に盛り込むべき事項」の中で興味深い内容を見ることができた。それは、介護保険における「在宅サービスのカバー範囲の検討」を掲げつつ、「対応を検討すべき者への地域における見守りの内容と提供方法」を考えていくという流れが示されていることだ。
  これは何を意味するかといえば、"公助"である介護保険サービスと"共助"にあたる地域の見守りがワンセットでなければ、療養病床削減の受け皿となりえない点を厚労省自らが認めたことにほかならない。つまり、療養病床の削減分について、「介護保険を拡充する」ことを想定せず、「地域の力で何とかしてもらいたい」といっているに等しいのだ。
  では、この「地域における見守り」という受け皿は具体的に何を意味するのか。今後、検討が進められる中で徐々に明らかになってくるだろうが、人口や年齢の地域格差がますます広がっていく中で「地域住民のマンパワーに期待する」などというレベルにとどまるものであるとするなら、まさに現実を見ない絵に描いた餅レベルの施策になりかねないだろう。次期介護報酬の改定の動きとあわせて、注目すべきポイントの一つといえる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.03.19
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