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介護福祉士法の改正法案が国会に提出
〜突然の「準介護福祉士」誕生が及ぼす混乱〜
●  「社会福祉士法・介護福祉士法」改正への戸惑いと反発
  今国会に厚生労働省は14の法案を提出したが、介護現場全体をひときわ大きく揺るがしているのが「社会福祉士法および介護福祉士法などの一部を改正する法律案」である。
  このうちの「介護福祉士法の改正」については、(1)現行において国家試験免除であった養成校ルート(2年以上でカリキュラムは150時間追加)についても受験を義務付ける、(2)現行で「3年間の実務経験を積めば受験資格を得られる」とする点について「3年間の実務経験に加えて新たに6カ月以上(600時間程度)の養成課程の受講を義務付ける」とするものだ。このほか、福祉系高校を出て国家試験の受験資格を得るというルートも、600時間以上のカリキュラムの増加が見込まれている。
  法案提出前にこれらの指針が示された際、生徒集めに苦慮している養成校や福祉系高校からはさらなる生徒減を危惧する声が上がった。また、介護現場からは「ぎりぎりの低待遇の中で、働きながら養成課程に通うなどの余裕はない」という戸惑いと反発が巻き起こっている(この点について今回の法案骨子では「通信過程などを認め、働きながら学ぶ者の負担軽減に配慮する」としているが、具体的な内容は厚生労働省令が定められるまで不透明である)。
●  「準介護福祉士」に集まる危惧の声
  だが、それ以上に現場を戸惑わせたのが、法案提出段階になって突然登場した「準介護福祉士」という資格である。要するに受験資格を得ながら、介護福祉士の国家試験をパスしなかった者(落ちた者および受けなかった者を指す)を、準介護福祉士として公的に登録するというものだ。法案では「介護福祉士の技術的援助、助言を受けて(中略)介護を業とする者」と定義されているが、職務における具体的な権限などの範囲については、介護福祉士とどう違うのかはほとんど見えてこない。介護保険制度改正の際に、厚生労働省は「将来的に介護福祉士を任用資格とする(つまり、介護職資格を一本化するというもの)」旨を明言していたが、この方針からは完全に逆行するものとなっている。
  今回の法案提出を「(介護福祉士)資格全体のレベルアップを図るもの」として評価していた日本介護福祉士会は、準介護福祉士の突然の登場に対し、厚生労働大臣あてに「早急に解消すること」を求めた要望書を提出した。
  筆者も2、3の介護福祉施設長に話を聞いたが、「これでは介護福祉士の社会的評価が下がって余計に人が集まらない」「準介護福祉士は『試験に落ちた者』というらく印が押されることになり、本人が働きにくくなる」などと危惧の声ばかりが上がっている。
●  準介護福祉士はフィリピン人介護士の受け皿?
  なぜ厚生労働省は、突然にこのような「受け皿」を用意してしまったのか。これは法案の骨子にも記されていることだが、来年から開始が予定されているフィリピン人介護士の受け入れとの整合性を確保するためだ。
  現行の協定案では、「養成校コース」を選べば修了後に自動的に介護福祉士の資格が取得でき、それがそのまま滞在期間延長の要件となっている。これが「国家試験に通らなければ資格は取得できない。取得できなければ4年後に帰国せざるをえない」となれば、フィリピン国側としても「話が違う」ということになりかねないからだ。そのために、滞在要件の受け皿にするべく準介護福祉士という資格を新たに設けたという訳である。
●  資格より業界を重視した対策が必要
  だが、今回のドタバタはあまりに近視眼的といわざるをえない。介護現場が直面している事態というのは、介護職の社会的地位の低さとともにワーキングプアにつながっている労働条件の低さが、そのまま人材難を生み出していることにある。つまり、いずれにしてもいくばくかの財政投与が行われない限り、問題の根本解決にはならないということだ。
  資格そのもののレベルアップを図るのは必要だろうが、それはあくまで車輪の片側に過ぎない。資格のレベルに見合った報酬体系をどのように築き上げていくかを同時に議論する機会こそが必要であるはずだ。次期介護報酬改定まであと2年。それまでに車輪のもう片方を固めなければ、それこそ介護業界全体が崩壊しかねないのである。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.04.02
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