>  今週のトピックス >  No.1429
介護労働者の人手不足をめぐる議論
〜次期報酬改定に向けた叩き台となるか〜
●  人材の空洞化懸念によって国が本格調査を開始
  5人に1人が65歳以上という類を見ない高齢社会が訪れる中、社会福祉業界、特に高齢者介護の分野における人手不足感が徐々に強くなっている。昨今、他業界における景気回復とそれにともなう求人が活発になり、低待遇・重労働が際立つ介護分野において人材の空洞化を懸念する声も強くなってきた。
  こうした人手不足感について、これまで客観的なデータは決して豊富だったとはいえない。だが、事態が深刻化する中で、国としてもようやく本格的な調査に乗り出したようだ。
  今年4月に開催された厚労省の社会保障審議会福祉部会において、「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」が話し合われた。そこで提示されたのが、介護関連職種の需給状況や介護職員の定着の状況に関する調査結果である。
●  制度維持を左右するのはパート職
  まず需給状況だが、都道府県別の有効求人倍率で見た場合、全職業の平均数値に比べて、介護職関連の数値は軒並み高い。その格差は特に関東圏で際立っており、例えば茨城県のケースを見ると全職業の0.91に対し、介護職関連は2.04と2倍以上の開きを見せている。
  中でも深刻なのが、非常勤つまりパート職種である。例えば、団塊世代を数多く抱える東京はこれから高齢化が深刻になってくるが、その中で介護職関連におけるパートの有効求人倍率は5.40という途方もなく高い数字を示している(ちなみに全職業においては2.03で、2.5倍以上の開きがある)。
  介護現場におけるパート職の大半は、訪問介護におけるヘルパーと考えていい。介護保険制度がスタートして以降、国は一貫して「施設から在宅へ」というサービスのあり方を進めているが、肝心の「人」という受け皿が枯渇状態にあっては、制度の仕組みそのものが揺らぎかねない危険をはらんでいる。
  一方、パート職というのは正職員採用に比べて、長期的なキャリア構築のあり方よりも短期的な時給の高低を問題にしやすい。これは何を意味するかというと、事業者サイドでどんなに内部研修やモチベーションアップの仕組みを導入したとしても、その裏づけとなる給与が厚くできないことを示している。
●  賃金問題の解決が重要
  やはり問題となるのは、労務管理システムをいじるだけではカバーできないほど、介護職の賃金が低いという点に尽きるだろう。こうした議論が出ると、「賃金の原資となる介護報酬は利用者の介護保険料で成り立っており、そうそうこれをアップすることはできない」という前提が壁となりやすい。
  だが、そろそろ視点を変えてみることも必要ではないだろうか。今回の審議会メンバーには民間事業者も含まれており、その中から以下のような意見が出されている。
  「介護保険には(保険料以外に)半分税金が投入されているのだから、労働分配率をいくら低くしてもいいということにはならないのではないか」「介護保険において賃金や待遇がきちんと確保されるよう、(厚労省から)財政当局に働きかけるべき」
  こうした意見は「いまさら」という感もしないではないが、あえて触れないようにされてきたポイントであるともいえる。次期介護報酬改定(09年度)に向けた議論はすでに始まっているが、暗黙のタブーとなりがちだった領域に足を踏み入れることができるのか。今回の審議会が大きな叩き台になることに期待したい。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.05.01
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