>  今週のトピックス >  No.1445
介護支援ボランティアで保険料を控除!?
〜保険料高騰を防ぐ新視点の一手〜
●  保険料高騰を防ぐ方策は「介護サポーター」
  介護保険料の高騰が懸念される中、保険対象範囲を若年層へと拡大することで、保険料納付を増やして財政を安定させる仕組みが検討されている。だが、この問題を検討していた有識者会議は、中間報告において確固たる方向性を示しきれなかったため、09年の次期介護保険計画への反映が絶望的となった。
  この問題は本トピックスにおいて後ほど検証するつもりだが、いずれにせよ、保険料高騰を防ぐため、次期報酬改定に間に合わせる方策を別の視点から模索せざるをえない状況になったわけだ。
  そうした中、厚生労働省が打ち出してきたのが「介護にかかわるボランティアを保険制度の仕組みに取り込む」という方策だ。
  健康な高齢者を対象として市町村管理のもとでボランティア登録をうながし、介護保険ではまかなえない「家事援助サービス」や要介護者の話し相手などにかかわってもらう。ボランティア活動を行った高齢者はその都度ポイントを積み立て、その加算に応じて保険料負担を減免され、将来的に介護サービスが必要になったときに、その利用料の代替えとして使えるようにするというものだ。
  このボランティアについては、「介護サポーター」という名称が予定されている。この介護サポーターは、そもそも政府が打ち出した「再チャレンジ可能な仕組みの構築」において登場したもので、07年より順次定年を迎えている団塊世代に対し、新たな社会資源の一翼を担ってもらうことを狙ったものだ。
●  きっかけは東京稲城市独自の「介護支援ボランティア特区」
  この介護サポーターを保険料の減免という仕組みへと結びつけるきっかけになったのは、東京都稲城市が行った「介護支援ボランティア特区」の申請である。
  もともと「介護支援ボランティアによる保険料控除」というアイデアは、平成17年8月に東京の稲城市長と千代田区長によって厚生労働省に提案されたものだ。厚生労働省は「検討に値する」としたものの、現行の改正介護保険制度での実施は見送られた。この見送りを「遺憾」とした稲城市は、構造改革特区として独自の実施を目指したのである。
  一番のポイントは、保険料を控除した場合の財源をどうするのかという点にある。稲城市が示した案によれば、「介護支援ボランティア制度は早い段階から介護予防の効果が見込まれ、介護給付費の削減効果に結びつく。よって新たな財源は不要である」というものだ。
  介護予防については、制度改正後の介護予防サービスについても明確な効果はいまだ実証されていない。確かに高齢者の社会参加機会が増えれば、生活意欲の持続にはなるだろうが、「予防効果によって控除の財源は不要」とまで言い切っていいものかは疑問符がつく。
  むしろ、この仕組みについての行政側の狙いというのは、介護保険制度の中に相互扶助的なシステムを組み込むことで、軽度の要介護者へのサービスにかかる給付費を抑えていくという点にあるのではないか。
●  介護保険制度の「公的福祉」としての役割は縮小傾向?
  実は、アメリカにおける一部の州では、NPOという非営利のネットワークを受け皿としつつ、そのネットワークの運営努力によって高齢者にかかる医療財政の支出を抑制するという仕組みがある。アメリカのNPOと日本のボランティアでは性格はずいぶんと異なるが、非営利の社会資源に財政好転のカギを握らせるという点では非常に似通っている。
  このアメリカ的な仕組みの構築について現段階では評価できないが、少なくとも介護保険制度の「公的福祉」としての役割はますます縮小されていくのは間違いない。稲城市の取組み効果を、「介護保険の将来像」としてしっかり検証することが求められる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.05.28
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