>  今週のトピックス >  No.1453
介護業界を揺るがす「コムスン」騒動
〜介護事業への社会的不信がピークに〜
●  介護業界を揺るがす「コムスン」の不正発覚
  介護業界が大きく揺れている。訪問介護事業などを手がける介護業界最大手「コムスン」(グッドウィル・グループ)に対し、厚生労働省は来年4月以降の事業指定の更新をしない方針を固め、指定を執り行う都道府県に通知を出した。これにより、全国に約2,000カ所を展開する同社の事業所のうち、1,600あまりが順次指定更新を受けられなくなる。
  コムスンについては、全国8カ所の事業所において、勤務実態のない別事業所のヘルパーを常勤として人員基準の中に含めていたなどの不正が発覚。コムスン側は指定取消処分などを受ける前に事業所の廃止届を出したことで、「指定取消」という処分は免れていた。
  こうした処分逃れともとれる行為に対し、介護給付の適正化を強く推進する厚生労働省としては、何らかの形で処分を行うことを模索していた。ちなみに08年に改正された介護保険法では、(1)介護保険事業所の指定に関して6年間の有効期限を設ける、(2)新規・更新指定前の5年以内に「不正または著しく不適当な行為」をした事業所の申請者(法人の役員など)について、同じ申請者による事業所指定は認めない、という旨が定められた。
  この(1)、(2)の規定を活用することにより、不正が発覚した事業所のうち、最初に6年の指定有効期限が切れるケースを起点としつつ、その後に有効期限が切れる事業所の指定更新を行わないという処分を打ち出したわけだ。
●  子会社への事業譲渡で不信感を助長
  ところが、6月6日、コムスンの親会社であるグッドウィル・グループは、コムスンの介護保険事業を別の子会社である日本シルバーサービス(NSS)に譲渡する方針を発表した。日程では、6月15日にコムスン、NSSがともに株主総会を開き、その決議を経た上で7月31日に事業譲渡を予定している。
  同じ子会社であっても、先の(2)でふれた申請者が異なりさえすれば、更新指定を認めない要件からは外れることになる。つまり、法的には何ら問題はないということだ。(これに対し、一部都道府県では「厚労省が認めてもわが県は指定更新の申請を認めない」という見解を打ち出している)
  全国展開を行う最大手であるがゆえに、事業所指定が取れないとなれば6万人を超えるといわれる利用者、および事業所で働く2万人を超える介護労働者の行き場が失われる。その社会的影響を考えた場合、何らかの形で受け皿を残さなければ親会社の存続にかかわると考えたのであろう。
  だが、すでに一度「処分逃れ」と取れる行為を行っているがゆえに、法の網をくぐり抜けるような今回の譲渡劇が社会的な不信感を助長することもまた否めない。それは、ひいては「介護事業者は儲けのためなら何でもやる」というイメージを社会に植え付け、ただでさえ不足している介護労働者の業界離れなどを促進する危険がある。となれば、「介護を受けたくても人手が回らない、受けたとしても劣悪なサービスしか受けられない」という、いわゆる介護難民の急増に結びつきかねない。
●  介護報酬以前に、福祉企業の財務体質見直しを
  今回の問題については、「介護報酬の過度な絞込みが、業界内のなりふり構わぬ事業展開を生む土壌になっている」という声もある。確かに介護報酬の低さは問題の一つだが、それは現場で働く人々が適正な労働対価を得るということを視野に入れた上での話であり、むしろ問題なのはわが国の社会保障の状況を見越せない「介護業界のずさんな財務体質」にあるのではないか。
  常勤ヘルパーの年収が300万円を切るような状況の一方で、大手が(どこまで意味があるのかと思うような)テレビコマーシャルを打っている状況を見ると、「お金の使い方」そのものに深刻な問題がある気がしてならない。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.06.11
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