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諮問会議からみる今後の税制改革の方向性
●  法人税率引下げの課題は財政再建との兼ね合い
  2008年度税制改正に向けた議論が本格化するのは、7月の参議院選挙が終わった今秋以降になるが、経済財政諮問会議では、改革に向けての議論がすでに始まっている。そうした諮問会議において提示された税制改革に向けての論点に基づき、2008年度税制改正の方向性として、「経済活性化」、「経済構造が変化する中での安定的な財源の確保」、「地方分権の推進」の3点が特に重要なポイントになると指摘するのは、ニッセイ基礎研究所(篠原哲氏)が発表したレポートである。
  経済活性化は「法人税率の引き下げ」が、安定的な財源の確保は「消費税の引き上げ」が、地方分権の推進は「地域間の格差是正」がそれぞれ議論の焦点となる。
  レポートによると、法人税率の引き下げは、経済成長を重視する安倍政権の方針に加えて、諸外国に比べ重い税負担がわが国企業の国際競争力の低下、内外資本の流出を招くなど、日本経済の活力が損なわれるという産業界の強い懸念から浮上したものといえる。
  ただし、法人実効税率を仮にアジア諸国並みである30%程度にまで引き下げるとすると、約4兆円規模の税収減を招くことになる。財政再建に向けた動きに逆行するという批判も強く、年末にかけての税制改革の議論の中では、財政再建との兼ね合いが論点となる。
●  「安定的な財源の確保」では将来的な消費税の引き上げは不可避
  経済の活性化とともに、今後の税制改革の焦点となると予想されるのは、経済の構造的な変化が進む中での「安定的な財源の確保」である。拡大する社会保障給付の財源を、税と社会保険料でどのように分担し、安定的な財源を確保していくかは、社会保障制度の維持のみならず、今後の財政再建を考える上でも重要な問題となる。
  安定的な財源といった面からは、いよいよ消費税率の引き上げの本格的な議論が始まる。引き上げの時期や規模については、経済状況や歳出削減の進捗状況なども含め判断していくことになると考えられるが、それとは別にレポートは、従来は別個に議論されてきた少子高齢化時代における税・社会制度を一体的に捉えて、その中で、消費税の位置づけを明確にすることが必要だとしている。
  また、消費税の増税は、大規模な国民負担増を招く上に、逆進性の問題など、国民から批判的な意見が集まる問題だが、少子高齢化が進展し、社会保障給付の拡大傾向が続く中で、その財源を安定的に確保していくためには、ゆくゆくは消費税の引き上げも避けることは難しいとの考えを示している。
●  議論の中心は「地域間の財政力・税収格差の是正問題」
  地方分権の推進に関する国・地方税制の見直しは、安倍政権が格差の是正を重視していることから、まずは地域間の財政力・税収格差の是正問題が、最初の論点となる。是正に向けた方法としては、税源の偏在性の高い地方法人二税(法人事業税、法人住民税)の分配方法を変える、または、それをより偏在性の小さい地方消費税に移すことが論点となるとみられる。しかし、国と地方、または地方間における各主体の主張が異なることから、議論は難航することが予想され、改革の全体像が固まるまでには時間を要するとも思われる。ともあれ、今後の地域間の税収格差の問題は、地方法人二税と地方消費税を中心に、国から地方への税源移譲や、交付税制度、消費税の引き上げ問題なども一体となって議論されることになるというのが、レポートの見方だ。
  そのほか、納税者の意思で住民税の一部を出身地などに移す「ふるさと納税」や、納税者が「ふるさと」へ寄附した場合に住民税から控除できる寄附金の税優遇を拡大する案なども浮上しており、今秋以降の税制改革に向けた議論が注目されるところとなっている。
参照レポートは↓
http://www.nli-research.co.jp/report/econo_report/2007/ke0702.pdf
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2007.06.11
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