>  今週のトピックス >  No.1458
急浮上した「ふるさと納税」制度
●  「骨太方針2007」に明記、高まる制度導入の可能性
  地方税である個人住民税の一定割合を、生まれ故郷などの自治体に納税することを納税者が選択できる「ふるさと納税」制度が急浮上して議論を呼んでいる。5月初めに構想を打ち出したのは菅義偉総務相だが、安倍首相も導入に前向きな姿勢をみせ、政府が6月19日に閣議決定する予定の「骨太方針2007」に明記し、2008年度税制改正で実現を図る方針を打ち出したことから、足元で、制度導入の可能性が高まってきている。
  現行の個人住民税制度は1月1日現在に住民票がある自治体に納付することになっており、納税者が自治体を選択することはできない。菅総務相の構想では、6月徴収分から一律10%となる個人住民税の1割程度を「ふるさと」への納税規模と想定している。「ふるさと納税」は、税源の不足する地方の財政力を補完する意図がある。地方税の住民一人あたりの税収格差は、最多の東京都と最少の沖縄県で3.2倍(2005年度)もある。
●  検討課題は「ふるさと」の定義と「応益性の原則」
  ただし、「ふるさと納税」の実現に向けては、検討を要する問題が少なくない、と指摘するのはニッセイ基礎研究所(篠原哲氏)のレポートである。検討課題は、まず、納税者が自由に納めることができる「ふるさと」の定義の問題だ。納税先である「ふるさと」を、「過去に居住した自治体」とするか、それとも「どの自治体でも良い」とするのかで、制度の姿や理念も変わってくる。場合によっては、自治体間で税収の争奪戦が生じかねないとみている。
  さらには、納税者が納税先を自由に選択することが、地方税の原則である「応益性の原則」に反するという指摘がある。納税者が、自身の居住以外の地域に納税することになれば、地方自治体が供給する行政サービスの費用を、そのサービスを受ける地域住民が負担するという応益性の原則が崩れることになる。
  ふるさと納税制度が導入されれば税収減が確実な東京都の石原都知事は「聞こえはいいが、税の体系としてはナンセンス」と批判。税法の原則をねじまげてまで新税を創設することができるのか、という疑問の声は多い。
●  「ふるさと納税」の効果は財政力格差の是正には限定的
  こうしたことから、寄附金控除の拡充によって、納税者が故郷に寄附した一定割合を納税額から差し引く税額控除を主張する案も出ている(中川自民党幹事長)。対象を住民税だけに限れば、国税に影響はないため財務省も受け入れやすい。
  ところで、上記のニッセイ基礎研究所のレポートによると、総務省は、現時点では「ふるさと納税」の規模を約1兆2,000億円と想定しているが、これは約34.8兆円の地方税収に対して約4%程度の規模でしかなく、地域間の財政力・税収格差の是正に対する効果は限定的である感も否めない。仮に来年度税制改正で「ふるさと納税」の導入が決定しても、それによる、地域間の財政力格差の是正の効果については、慎重な見方をしておく必要があると指摘している。
  「ふるさと納税」制度は、最終的には年末にかけての税制改正の議論の中で決定することになるだろうが、その頃は参院選も終わった後であり、現在のところ、どこまで具体化するのか先行きは不透明な状況にあるといえる。
参照レポート(ニッセイ基礎研究所)↓
http://www.nli-research.co.jp/report/econo_letter/2007/we070608.pdf
(浅野 宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2007.06.18
前のページにもどる
ページトップへ