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介護業界を揺るがすコムスン騒動(その後)
〜一向に見えない制度改革へのメッセージ〜
●  事業の譲渡先を巡るさやあて
  介護業界を大きく揺るがした一連のコムスン騒動から2週間以上が経過した。この間、同一グループ内の事業譲渡が世間の厳しい批判にさらされる中で断念を余儀なくされ、事業継続のための受け皿候補として(外資まで含めた)さまざまな外部企業の名前が挙がり、さやあてを繰り返すという状況に至っている。
  まず、有料老人ホーム事業を含めた一括譲渡を模索するコムスンに対し、訪問介護事業の最大手ニチイ学館が「(訪問介護以外の事業も含めて)全事業を一括で取得する」旨を表明した。これに対し、外食チェーンから有料老人ホーム運営などに参入したワタミが、「有料老人ホーム事業はワタミ、それ以外の訪問介護事業等は『民間事業者の質を高める』全国介護事業者協議会(民介協)」という分担制の枠組みで一括引き受けを行なうとしている。
  ここで登場する民介協とは、全国の中小介護事業者約490社から成る有限責任中間法人である。業界内にはもう一つ、日本在宅介護協会というやはり有限責任中間法人があり、こちらは賛助会員まで含めると全国で約230社の介護事業者が会員となっている。ちなみに後者は、現状でワタミのライバルとなるニチイ学館代表取締役が会長を務める。
  このニチイ学館とワタミ連合のさやあてという構図に、流通・小売業の大手イオンを筆頭株主とするウェルシア関東が参入し、やはり一括引き受けに名乗りを上げている。加えて、現場の介護従事者が所属する職業別労働組合「日本介護クラフトユニオン」(UIゼンセン同盟)は、分割譲渡は利用者のサービス維持と介護労働者の雇用確保を難しくするとして、あくまで一括譲渡を主張。企業側と労働者側の思惑が入り乱れる形で、事態の先行きがますます見えにくくなっている。
●  “蚊帳の外”の利用者
  こうした一連の動きを見る中で、どうもしっくりこないのは、最も影響を受けているはずの利用者側からのメッセージがほとんど伝わってこない点だ。サービスの利用当事者や家族介護者などでつくる組織はいくつかあるが、今回の騒動に関する目立った声明などは出ていない。これが、今回の騒動に関して「肝心の利用者が蚊帳の外に置かれている」というイメージが払拭できない一因となっている。
  コムスンの失態は法令順守のズサンさやお粗末な財務戦略にあったことはいうまでもない。だが、そうした企業体質を生んだ日本の介護制度設計の甘さと、そうした企業にも頼らざるをえない深刻な介護ニーズもまた、問題の奥底にあるのは事実である。こうした風土を根本から正していくためには、参入企業・介護労働者・サービス利用者の三者がそれぞれの立場から制度設計の素案を持ち寄り、民間レベルで介護保障制度案を作り上げて国にぶつけていくくらいでなければ駄目だろう。
●  制度の再構築はあくまで利用者視点で
  厚労相は、今回の騒動に関して緊急の介護保険法改正まで示唆している。少なくとも09年には次期介護報酬改定が待っており、そこで大きな議論となることは間違いない。
  従来のように、役人側の思惑によって召集される審議会のみをベースとするのではなく、本当の意味で国民的な議論ができる場を一刻も早く設けるべきだろう。事業買収に丁々発止を繰り返すエネルギーがあるのなら、その一部でも制度構築に向けたメッセージへと振り向けてはどうなのかという思いが募る。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.06.25
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