>  今週のトピックス >  No.1477
介護給付や事業の適正化圧力が強まる
〜利用者が納得できる「適正化」となるか〜
●  注目される「介護事業運営の適正化に関する有識者会議」
  介護事業者大手コムスンなどによる数々の不正は、介護保険制度の運営そのものに大きな影響を与えつつある。その一つの動きとして、今年7月より厚生労働省内に設けられる「介護事業運営の適正化に関する有識者会議」に注目が集まっている。
  同会議は「介護サービス事業者の不正事案の再発を防止し、介護事業運営の適正化を図るために必要な措置等について検討する」ことが趣旨とされている。興味深いのはそのメンバーだが、いわゆる保健福祉の専門家にとどまらず、大学の経済学部や経営情報学部、法学部の諸教授、さらには弁護士が名を連ねている。つまり、介護事業における財務の健全化やコンプライアンスのあり方などにも踏み込みながら議論を進めるということだ。
  具体的な議論の中身については、審議会がスタートした後に詳細を報告したいと思うが、今回は審議会設置に目を奪われているだけでは「運営適正化」の波をとらえ切ることはできないことを指摘しておきたい。
  介護給付費の大幅な伸びに危機感を募らせていた厚労省は、すでに平成16年より、(1)要介護認定の適正化、(2)ケアマネジメント等の適正化、(3)介護サービス事業者に対する制度内容の周知・助言および指導・監査等の適切な実施という3つを柱とした「介護給付費適正化運動」を推進してきた。平成18年4月の介護保険制度の大幅な改正とともに、給付費削減へ向けた大きな仕掛けといえる。
●  「コムスン摘発」は予定された動きだった?
  (3)の指導・監査等の適切な実施が進められた結果、平成18年末にコムスンなどの大手介護事業者に対する立ち入り調査へとつながることになる。この段階から厚労省の「適正化」に向けた姿勢は厳しさを増し、自治体ごとに適正化の目標設定を求める「介護給付適正化プログラムの策定」に向けた動きへとつながっていった(スケジュールとしては来年3月までにプログラムを確定し、平成20年度よりスタートすることになっている)。
  つまり、6月初旬に実施されたコムスンに対する新規指定の受付停止という処分の一方で、プログラム策定の動きはすでにスタートしており、タイミングを考えれば「コムスン摘発」はある意味予定された動きであるといううがった見方もできる(6月29日には国保連担当者などを召集した大規模な「介護給付適正化担当者会議」が開かれている)。
●  事業者や自治体に問われる説明責任
  問題は、このプログラム策定の柱となる自治体ごとの目標設定について、何をもって「目標」とするのかという点だ。公表されたスケジュールでは、今年10月までに「優良事例の報告および評価」や「先駆的事例の照会」などという文字が並ぶ。具体的にどんな事例があがってくるのかにもよるが、現場からの声を聞くと大きな懸念も先に立つ。
  最近、サービス利用者からの相談や告発などを受けることが増えているのだが、例えば「介護保険では認められていないサービス給付」に対して、「なぜそれが認められないか」という説明以前に「国が認めていないから」という一辺倒で断る事業者が増えている。また、そのことについて保険者(市町村)に抗議するとやはり「制度で認められていない」という説明ばかりを繰り返すケースが多い。つまり、「なぜそうなるのか」という説明責任を果たせない事業者や自治体が増えている印象を受けるのだ。
  現場レベルで「説明できない」サービスカットが、果たして本当の意味で給付の「適正化」と言えるのか。今後目標設定がなされていくとするなら、利用者に対して納得できる言葉を並べてほしいと切に願う。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.07.23
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