>  今週のトピックス >  No.1482
自社株贈与の相続時精算課税の特例に落とし穴
●  実務家からは「使いづらい」の声も
  2007年度税制改正において、中小企業の事業承継円滑化を目的に相続時精算課税制度を拡充した自社株(特定非上場株式等)贈与の特例が創設されたが、実務家の間からは「使いづらい」という声が聞こえてくる。自社株贈与の特例は、一定の要件を満たすときに限り、60歳以上の親からの贈与について相続時精算課税制度の適用を選択することができ、この場合の特別控除額は500万円を加算し3,000万円とするもの。
  この特例は、自社株を後継者に生前贈与することで円滑な事業承継を税制面から支援しようというものだが、「使いづらい」との声の背景には、要件の難しさがあるようだ。実務家は、その一つとして、「特例選択年の翌年3月15日から4年経過時点で、受贈者である子が、代表者かつ株式等50%超保有、50%超の議決権を有すること」のすべてを満たすこと、という要件を指摘している。
  つまり、自社株の贈与時点では親子間で事業承継の話がスムーズにまとまっていることから特例の適用を選択しても、上記の4年の歳月の間には親子間に何らかの確執が生じ、話がご破算となって要件をクリアーできない事態も起こりうる。例えば、4年経過時点でその会社の代表者として経営に従事していなければ、特例の適用が認められなくなり、修正申告する必要がある。
  ほかにも、特例の適用を受けるにあたっては、あらかじめ、贈与者である親の推定相続人のすべて(行方不明者を除く)の同意を得ていることが必要だが、これもハードルの一つとの指摘がある。この特例は2007年1月から2008年12月末までの贈与と期間が限定されているため、2年間で後継者に50%超の議決権のある株式を所有させるだけでなく、将来起こりうる事態も想定した計画的なスキームが必要というわけだ。
●  自社株贈与の特例での修正申告は暦年課税で計算
  自社株贈与の特例のもう一つの落とし穴は、4年後に確認する一定要件を満たさない場合、特例が取り消されて修正申告する必要があり、その際の贈与税は、暦年課税により計算しなければならないことだ。
  自社株贈与の特例では、特例選択年から4年経過時点(確認日)で、贈与を受けた子ども(特定受贈者)が上記の要件を満たすことについて、経済産業局長が発行する確認書を提出する必要がある。確認書は、確認日の翌月から2ヵ月以内に所轄税務署長に提出することになっている。
  その提出期限までに確認書の提出がなかった場合は、修正申告書を提出し、同時に修正申告に基づく税額を納付しなければならない。国税庁がこのほど公表した改正通達によると、「その修正申告書に係る贈与税額は、その特定受贈者が選択年中にその特定贈与者から贈与により取得した住宅取得等資金について精算課税の特例の適用を受けている場合を除き、暦年課税により計算すること」を留意的に明らかにしている。
  自社株贈与の特例では、選択年中に親から贈与された自社株と住宅取得等資金がある場合は両方の特例適用を認めているので、自社株贈与の特例がだめになっても、住宅取得等資金に係る特例は認めているわけだ。
  それにしても、修正申告に係る贈与税の計算においては、特例適用であれば本来3,000万円だった非課税枠が、年間110万円のみの暦年課税となってしまい、当初の思惑から大きく外れる。あらためて、特例選択は、十分に将来を見通した計画的なスキームが必要なことを肝に銘じたい。
(浅野 宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2007.07.30
前のページにもどる
ページトップへ