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国民医療費の将来見直し
●  国民医療費の将来予測は常に過大
  国民医療費が今後どの程度の金額にまで膨らんでいくか、いわゆる国民医療費の将来見通しは、今後の医療保険料の算定や消費税率の引き上げなどにかかわる重要な予測数値である。にもかかわらず、これまで厚生労働省(旧厚生省)の予測数値は、予測を行うつど大きく下振れし、信頼性のないものとなっている。
  たとえば、平成6(1994)年に出された予測では、平成37(2025)年での国民医療費は141兆円と見込まれていた。次に平成12(2000)年に出された予測では平成37年は81兆円と下方修正された。平成18(2006)年に出された予測では65兆円とさらに下方修正されている。今回新たに出された予測は48兆円であり、141兆円と比べると1/3の金額である。
●  予測方法のシンプルさが原因
  予測がぶれる理由として厚生労働省が挙げるのは、これまでの国民一人あたり医療費の伸びが将来も続くものとして伸び率を算出し、それに人口構成比の変化を加味したものが基本となっている。国民医療費については、老人保健制度の自己負担の見直し、介護保険制度の創設、本人の窓口負担の引き上げなどといった医療費を抑制する制度見直しが継続的に行われているため、伸び率が逓減しており、結果として予測値が下振れしているとのことである。
  実際には、平成16(2004)年度での国民医療費は32.1兆円である。ここ数年間4,000億円程度、率にして1.3%の伸びでしかない。
  これだけぶれてしまっては立法や行政の参考データとして使うのは無理がある。
  医療費抑制をめざす厚生労働省が試算の前提となるGNPの伸び率を高めに設定することで医療費の伸びを高めに見積もってきたという声も強い。1994年の予測では今後のGNPを年5%増と見込むなどかなり不自然な前提条件も見られる。
  ちなみに医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構が2005年に行った予測では2025年には44兆円という試算をしている。
  今後の国民医療費の予測においては、人口構成比の変化等や医療の高度化に伴う自然増と、制度改定に伴うマイナス分を別建てで表示することを厚生労働省では検討している。
  また、国民医療費について広く議論ができるよう単純に現在の数値をころがして算出するだけでなく、医療費の内訳を示すとしている。
●  国民医療費の将来予測は常に過大
  これまで国民医療費が下振れを続けて予測を下回ってきたのは、医療機関や製薬会社、なにより国民自身に負担増を迫ったことによって実現したに過ぎない。本来の医療費の抑制は医療ニーズ自体を縮小させること、つまり国民が疾病予防を心がけることでしか実現しないはずである。今回の健康保険法改正による生活習慣病対策も、法施行前に早くも頓挫しかけているという声も聞く。病気を予防し国民医療費を削減するという、あるべき政策の実現をのぞむ。
出所:厚生労働省「医療費の将来見通しに関する検討会」(平成19年7月)
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2007.08.06
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