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コムスンの事業譲渡計画がまとまる
〜在宅系の47都道府県分割に潜む課題〜
●  コムスン事業移行計画公表
  大手介護事業者のコムスンは、度重なる不祥事により、2008年3月までに全事業を他グループの企業へと譲渡することになった。その経緯については、当コーナーでも何度か触れてきた次第である。問題は、どのような仕組みをもって円滑な事業譲渡を実施するかという点にある。何しろ事業規模が極めて大きいゆえに、一つ間違えれば利用者に多大な不利益を与えるだけでなく介護保険制度自体を揺るがしかねない。
  この円滑化を目指した事業移行計画が、7月31日に公表され厚生労働省にも報告がなされた。同時にこの計画に沿って、事業移行先の企業の公募も行なわれている(一連の内容については、コムスンのHPで確認できる)。
●  在宅系サービスは分割譲渡の方針へ
  コムスンが運営する介護サービス事業は、訪問介護や訪問入浴介護、居宅介護支援などの在宅系サービス、それに介護付有料老人ホームやグループホームといった居住系サービスに大きく二分される。当初、コムスン側はこれらの事業を一括譲渡することを基本方針としていたが、一定規模以上の企業が継承した場合に介護市場に寡占状態が生まれる可能性が浮上し、中規模事業者や行政などが難色を示していた。そのため、在宅系サービスについては、一括譲渡の方針から一転して分割譲渡の方針へと流れた次第である。
  注目すべきは、この分割譲渡に関して、47都道府県ごとに1法人ずつという継承枠を設定したことだ。計画書では、「地域の特性に応じた対応が望ましいとする世論や自治体の意向に配慮した」としているが、要は事業者指定の権限が都道府県にあることを考えれば、各都道府県の責任において管理・監督が行き届きやすいという意向もあったであろう。
  問題は、すでにコムスンが展開している事業所の中には単独ではとても採算がとれないような過疎地域に立地しているケースもあるということだ。都道府県によっては、こうした不採算地域の事業所を数多く抱えてしまっている場合、いくら公募しても手をあげる事業所が出てこないという地域もありえる。
  その場合、地域の社会福祉協議会などが受け皿となるケースが想定されるが、社協といえども事業補助が先細っている昨今、無条件で受け入れるかどうかは不透明だ。
  いざという場合は、厚労省が各自治体と協議したうえで個別に対応していくとしているが、具体策は示されていない。コムスン側は「利用者へのサービスを将来にわたって安定的に提供する能力を有すること」という条件をつけているが、最悪の場合、事業所の統廃合にもつながりかねないケースも想定される。
●  9月上旬までに移行先決定予定
  ちなみに、事業者選定に関しては有識者によって構成される第三者委員会(委員長・堀田力氏)によって審査され、9月上旬までに移行先を決定するというスケジュールが設定されている。恐らくは厚労省内部において、同時並行で「移行先が見つからなかった場合」の対応策を協議することになるだろう。
  いずれにしろ、この分割譲渡が進行していく中で、いずれは介護保険制度そのものが問われる事態が生じることは間違いない。それは国家的な難問である地域間格差というテーマを巻き込みながら、日本人の老後に大きな課題をつきつけることになる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.08.06
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