>  今週のトピックス >  No.1493
介護現場の人手不足対策に基本指針
〜次期報酬改定にどこまで影響を与えるか〜
●  必要不可欠な介護保険サービス従事者数の増員
  介護現場における従事者の人手不足が大きな社会問題となりつつある。この問題に国レベルで対処するべく、厚生労働省の社会保障審議会において、昨年来より基本的な指針づくりに向けた作業が行なわれてきた。
  この基本指針(社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針)が、今年7月までにまとめられ、26日の同審議会福祉部会において、厚生労働大臣あての諮問書とともに提出された次第である。
  まず注目されるのは、福祉・介護サービスにおける就業の現況にふれられていることだ。それによれば、平成17年現在、福祉・介護サービスに従事する者の数は約328万人で、そのうち介護保険サービスに従事する人の数は約100万人(平成16年現在)と示されている。そのうえで、平成26年までの試算として、仮に要介護認定者の伸びに比例して職員数が増加することとした場合、約150〜160万人が必要という数字が出されている。
  つまり、少なくともこの10年間に、現在よりも約40万人から60万人の介護職員の増員が必要であるということだ。ちなみに、労働力人口に占める割合に換算すると、平成16年の1.5%から、平成26年には約2.1〜2.4%にまで増加する計算になる。
  しかしながら、平成16年度だけを見ても、介護職の離職率は1年で2割に達している。今後、少子化において全体的な労働力人口が減少することを加味すれば、先述の必要数を達成することは極めて困難な状況といえる。
●  「労働環境の整備」だけではない課題の数々
  こうした時代背景のもとで人材確保をいかに進めるべきか。指針では、その具体的な方策として、労働環境の整備の推進という観点とともに、キャリアアップの仕組みの構築や、潜在的有資格者を含む多様な人材の参入・参画の促進などを提言している。
  中でも喫緊の課題として注目されるのは「労働環境の整備」であるが、指針では事業経営者や関係団体に対して、「従事者に対する事業収入の適切な配分に務めること」や「国家公務員の福祉食俸給表等を参考にすることで給与体系の検討を行なうこと」などを記した。と同時に、国や地方公共団体に対しても「適切な水準の介護報酬等を設定すること」を求めている。
  後者においては、介護福祉士や社会福祉士などの専門性の高い人材を配置した場合において、介護報酬における評価のあり方について検討を行うことまで踏み込んでいる点が注目される。この指針が諮問書として厚生労働大臣あてに提出されていることを考慮すれば、次期介護報酬において何らかの形で反映される期待が大きく高まることになるだろう。
●  それでもやはり最大の問題は報酬額
  しかし、具体的にどのような体系をもって介護報酬へと反映させるのかについてまでは述べられていない。地域によっては、介護従事者の人手不足は待ったなしの状況に陥っているケースもあり、そうした中ではやや悠長という印象も付きまとう。
  ちなみに、平成18年の報酬改定によって、訪問介護などでは、介護福祉士の取得者を一定以上従事させている場合に特定事業所加算が付せられることとなった。だが、このハードルがあまりに高く、達成されたのはわずか数%という現状も浮かび上がっている。
  せめて、こうした加算の現状について、審議会として検証をすべきではなかったのか。一般論としての提言も必要であろうが、日本の社会保障制度そのものの見直しにかかる問題も多いことを考えれば、もう少しショック療法的な一石もほしかった感が強い。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.08.20
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