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介護保険制度改正後、初の給付実態調査
〜利用者減の数字が示すものとは〜
●  利用者数、初のマイナス
  06年度に介護保険制度が改正されて、初めての年間介護給付費実態調査の概況(06年5月から07年4月)が厚生労働省によって発表された。何より注目されるのが、介護保険制度のスタート後としては、サービス利用者が初のマイナスになったことだ。
  減少数は、前年度と比較して約10万3000人。これまで年間30〜40万人ずつ増加してきた状況を考えれば、信じられない数字である。給付費総額の減少ならばともかく、利用者そのものの数がこれだけ減少することは、一向に衰えない高齢化率の上昇と照らし合わせても奇異としか言いようがない。
  名寄せをした実利用者数を見てみると、施設給付費の見直しや療養病床の削減によって施設サービスの利用者が大幅に減ったこと、それと、軽度の要介護者に対する介護用ベッドや車椅子といった福祉用具のレンタルに規制がかけられたこと、この2点が利用者減の大きな要因であることが浮かび上がってくる。
●  利用を取りやめざるを得なかった
  だが、それ以上に気になる点がある。例えば、居宅サービスの代表である訪問介護を例にとってみよう。06年4月より介護予防訪問介護がスタートしており、その数を含めた訪問介護サービス利用者の実数は前年度に比べて約70万人増加している。ところが、年間の累計利用者数(名寄せ前の数字)は30万人近く減少しているのだ。
  これは、利用者の多くがサービス利用を中断したり、他のサービスに乗り換えたりしていることを意味する。施設サービス利用も減少していることを考えれば、重度化による中断ではなく、明らかに「介護保険サービス自体の利用を取りやめた(取りやめざるを得なかった)」という人が増えているのだ。
  厚生労働省としては、「介護予防に力を入れた効果」を力説したいところだろうが、現場の声を聞く限りでは、そのような楽観論が浮かび上がる余地はほとんどない。
●  生活援助(家事援助)カットの悩みは深刻
  そんな中、利用者などから介護保険に関する相談を受け付ける「介護保険ホットライン」という電話相談が、今年も多くの市民ボランティアによって実施された。昨年同様、私も1日だけ相談員として参加させてもらったが、寄せられる利用者の生の声を聞く限りでは、さらなる深刻な現状が伝わってくる。
  個人的に電話を受けた事例については、相談者のプライバシーの問題もあるので、ここでは電話相談の結果をまとめた報告書をもとに概況を述べてみたい。
  とにかく目立つのは、訪問介護におけるサービスカットについての悩みである。その比率は、相談内容全体のほぼ半数にのぼる。
  中でも生活援助(家事援助)のカットについての悩みは深刻で、「同居家族がいる場合に生活援助が受けられなくなった」ことや、生活援助の報酬に上限が設けられたことで「2時間だったサービスが1時間に減らされた」などという声が圧倒的である。問題なのは、そうした問題について事業者やケアマネジャー、自治体などからの説明があいまいであったり、「国が決めたことだから」という常套句で逃げてしまうケースが多いことだ。その結果、利用者としては介護保険そのものへの不信を募らせて「もう介護保険の世話にならない」という心理を強めている印象を受ける。
  わずか100件たらずの相談事例ではあるが、権利意識の高い人が相談をしてくる傾向が強いことを考慮すれば、水面下には泣き寝入りせざるを得ない人が大量に存在していると考えるのが自然だろう。この相談事例と、先にふれた「サービス利用者の減少」というデータを照らし合わせたとき、「制度への不信感からサービス取りやめに至った」という推察は、決して的外れではないことを示している。
  制度的に「生活援助」などが受けられないということならば、代替えとなるサービスを紹介したり、積極的につなげていくことが事業者や自治体の役割ではないのか。ただの切捨てが全国で蔓延しているとするなら、絶望感に追い詰められた要介護世帯が介護心中などに走る危険性は急速に高まることになる。
  厚生労働省が発表した数字の裏には、とてつもない深い闇が潜んでいると考えてしまうのは、うがち過ぎなのだろうか。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.09.03
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