>  今週のトピックス >  No.1505
職場での「信頼感」が低下
●  経営者、上司、同僚などへの信頼が低下
  財団法人社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所が発表した2007年版「産業人メンタルヘルス白書」によると職場において、経営者や上司、同僚などへの信頼感が低下していることが分かった。
  この調査は、近年「心の病」が増加傾向にある中で、産業界におけるメンタルヘルスへの取り組みの促進を図るため、同研究所が2001年から毎年実施、発表している。
  「信頼」がソーシャル・キャピタルとして重要であることは、広く理解が得られている一方で、企業の不祥事や政治家、官僚の不正が続く中、社会的な「信頼の欠如」を危惧する声も大きくなっている。
  こうした中、今回の調査では、産業人の「信頼」の現状はどうか、またその要因について、Japan Mental Health Inventory(以下、JMI)心の健康診断の蓄積データにより経年変化から検証を行っている。
●  仕事に対する価値観は、自己中心的に
  調査結果を見てみると、JMI健康調査票より選ばれた12の信頼項目の4半世紀の応答率経年変化は、全ての項目で産業人の信頼は低下していることを示す結果となった。
  「会社の最高経営層に信頼感を持っている」の項目では、測定当初から下降しており、特に、バブル期に大きく下降、1999年度、2002年度に最低の33%に落ちている。最も高かった1982年度の55%と、最も低かった1999年度、2002年度の33%を比べると実に22ポイントも落ちていることが分かる。これは、バブル期以降の終身雇用制度の崩壊、リストラ、成果主義の導入などにより経営者に対する信頼感が大きく損なわれたためではないだろうか。
  「職場の人はみんないい人だ」の項目では、測定当初から1989年度まで下降し、いったん上昇に転じるが、1994年度をピークに再び下降に転じている。その後は、大きく上下しているが、傾向としては下降していることが分かる。測定当初の1982年と2006年の差はマイナス17ポイントにもなっている。
  また、「自分の思ったことはすなおに他人に話せる」の項目では、バブルに入ってしばらくした1989年度から下がり方が急になり、1997年度でいったん下げ止まったかのように見えたが、それ以後もゆるやかに下降している状況である。実力主義、成果主義が当たり前となる中で、従業員の会社への帰属意識は希薄になり、職場の同僚はライバルとなり、仕事に対する価値観も「キャリアアップのため」「自分のスキルを高めるため」と自己中心的なものへと変化してきた。このため、職場には、仕事の悩みなど自分の弱い面をさらけ出し、相談できる相手がいないという信頼感の低い結果につながっているように思える。
●  メンタル・ヘルスにおける信頼の回復が重要
  今回の調査において、全ての信頼項目が低下している理由として、若い世代における信頼の低下が挙げられる。世代が若くなるにつれて信頼は低下し、信頼の高い世代が抜け、信頼の低い世代が残ることで、産業界の平均的な信頼は低下しているといえるだろう。
  信頼の低下は、人間関係を希薄にし、人々を孤立させ、心の病を生む原因となる。今後は、一人ひとりがお互いを信じ、社会を信じ、信頼に値する行いをするように心がけていくことが必要であろう。そして、経営への信頼を高めるには、経営者が従業員の信頼にも社会の信頼にもしっかりと応えていくことが必要である。
出所:財団法人 社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所 2007年版 『産業人メンタルヘルス白書』
http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/mhr/activity000830/attached.pdf
(庄司 英尚 株式会社アイウェーブ代表取締役、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2007.09.10
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