>  今週のトピックス >  No.1509
コムスンの在宅サービス移行先が決まる
〜移行後のスムーズなサービス継続は可能か?〜
●  在宅系サービスの“空白地帯”はとりあえず回避
  不正事例による行政処分を受け、介護事業からの撤退を表明しているグッドウィルグループが、9月4日、子会社コムスンの事業移行先を最終決定した。8月末に外部の有識者による第三者委員会(委員長・堀田力氏)を立ち上げ、居住系サービス(有料老人ホームやグループホームなど)、在宅系サービス(訪問介護や居宅介護支援、訪問入浴介護など)に分けて受け入れ事業者の募集を行なった後に、選定作業に取り組んできた。
  特に注目されたのは、在宅系サービスである。当初、コムスン側は一括譲渡を目指していたが、国や自治体の意向を受ける形で47都道府県別に移行先事業者の募集・選定を行うことを発表。だが、これによって手をあげる事業者がいないという“空白地帯”が生まれる可能性が懸念された。その点については、当トピックスでも指摘した次第である。
  だが、フタを開けてみると全都道府県において応募があり(正式応募数675件252法人)、とりあえず“空白地帯”の出現は避けられることとなった。選定後は、各受け皿となる法人との売却交渉に入り、コムスン側取締役会における承認を経たうえで、譲渡先との株式譲渡および売買契約が締結された。
●  選定結果は“大手頼み”
  当初、“空白地帯”が生まれる懸念があった理由として、(1)山間部・離島などでのサービス提供に関して中長期的に採算を取ることができるのか、(2)夜間対応などのノウハウを携えた事業者がどれだけあるのか、(3)問題発覚以降のヘルパーの退職・新規採用の困難さから必要な人員が確保できる見通しがあるのか、といった点に疑問符がついていたからだ。(実際、分割譲渡以前に、山間部・離島、あるいは夜間対応などから撤退した事業所もある)
  では、今回の“空白地帯”解消は上記の問題が全てクリアされたことを意味するのかといえば、記者会見において堀田力・第三者委員会委員長自らが「100%のスムーズな移行は難しい」「新たな第三者機関の設置などによるチェックが必要」と述べている。
  選定結果を見ても、第三者委員会の苦悩が表れている。「分割譲渡」とはいっても、よくよく見ると、ジャパンケアサービス、セントケアホールディングス、ニチイ学館、サンキ・ウェルビイという大手4社で34地域が独占されている。ジャパンケアサービスのように、夜間訪問のノウハウが厚いといった点が選定に際して評価されたということもあるが、それだけ大手の安定した経営基盤に頼らざるをえない状況が垣間見えてくる。
  選定結果が出た後、各地の事業者や利用者に電話で聞いてみたところ、これら大手が譲渡先として選ばれた地域の中に「地元ではあまり聞いたことがない」という声も複数あった。中には、「昔から地元で知名度のあり、住民の信頼も厚い事業所が候補としてあがっていた。当然そこが選ばれると思ったが、地元ではあまり知られていない事業者に決まったので驚いている」という声も出ている。
  今まで利用者の担当をしていたなじみのヘルパーは、基本的にそのまま担当を続けることができるようにする──第三者委員会はこの点を強調しており、その意味では利用者側の不安は最小限に抑えられることにはなるだろう。だが、「見知らぬ法人でも安心感は確保できる」というのであれば、そもそも47都道府県に分割した意味はどこにあるのか。
●  望まれる地域密着型機関の創立
  一つだけ言えることは、たとえ全国展開の大手であっても、地域の実情に合わせたケアを構築しなければ、地元住民の厳しい視線にさらされることになったという点だ。例えば、今後運営の適正化を監視する機関ができるとするなら、住民参加による地域密着型の機関の創立が望ましいという声が高まるだろう。
  今回の譲渡先によるサービス提供が始まれば、恐らくそれなりの混乱が生じることになる。だが、それを乗り越えて「住民が事業者を監視・コントロールする」という仕組みができれば、介護保険制度に新たな光を注ぐ機会となる可能性もある。これで一件落着ではなく、今後の推移こそに注目してみたい。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.09.18
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