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住民税の負担増に相変わらず多い苦情や疑問
〜住民税はどうしてこんなに高くなったのか!〜
●  国・自治体は「トータルの税負担額は変わらない」と説明
  国から地方への3兆円の税源移譲に伴い、多くの給与所得者の所得税が1月から減少し、逆に住民税は6月から増えている。国や自治体は「税金の移し替えなので、個々の納税者の所得税と住民税を合わせた税負担は基本的には変わらない」と説明しているが、6月から負担増となって4カ月を過ぎた今も、「どうしてこんなに高いのか」という納税者の苦情や疑問が市町村に多く寄せられているようだ。
  総務省では、例えば年収500万円の夫婦子ども2人の世帯の場合、税源移譲前の年間負担額は所得税11万9,000円と住民税7万6,000円で計19万5,000円だったものが、税源移譲後は所得税が5万9,500円と減る一方、住民税が13万5,500円と増えるものの、合計は19万5,000円と変わらないと説明している。
●  国や自治体の周知不足が最大要因
  それでも、納得できない納税者が多い一因としては、定率減税の廃止があると考えられる。所得税額の10%相当額(12.5万円を限度)、個人住民税所得割額の7.5%相当額(2万円を限度)を控除していた定率減税が、2007年分所得税、2007年度分住民税から廃止されている。上記の年収500万円の夫婦子ども2人の世帯の場合、定率減税廃止による所得税・個人住民税の負担額は1万7,600円、同じく年収700万円のケースでは4万1,000円と試算されている。
  住民税はボーナス徴収がないので、一般的には所得税より月々の負担感が強いのだが、加えて、税源移譲に伴う改正の陰に隠れた定率減税の廃止による負担増が、納税者の負担感をさらに強めている一因となっている。定率減税による負担増は月々にすれば数千円なのだが、税源移譲にしろ定率減税の廃止にしろ、"寝耳に水"であればその増加に驚くことは想像に難くない。
  結局のところ、納税者の苦情が殺到している背景として、国や自治体が税源移譲に伴う改正の周知・説明が不十分だったことや、定率減税の廃止も、既定路線だったとはいえ、現実には知らなかった納税者が多かったことが最大要因として考えられる。
●  前年より所得減の場合も住民税は増加
  ところで、「トータルでの税負担は変わらない」との説明は、前年と所得が変わらないことを前提としている。ところが、2006年に比べ2007年の所得が減少した場合には税負担が増加する。所得税が所得のあった年に課税されるのに対し、住民税の所得割は前年の収入に基づいて計算することから、このタイムラグが税源移譲に伴う税負担増の原因となっているケースがあるのだ。
  例えば、2006年に700万円の年収があった夫婦子ども2人の世帯が、2007年は年収500万円となった場合で3万8,000円、年収500万円の独身者が、年収300万円となった場合で3万5,500円、それぞれ税負担が増える可能性がある。この試算は定率減税廃止の影響を考慮していないから、税負担はさらに大きくなる。
  各種の調査を総合すると、転職や離職、退職などによって前年よりも収入が減少する人の数は年間300万人を超えるとみられており、こうしたことも、相当数の人が税源移譲による住民税の負担増に驚いて市町村の窓口に苦情を寄せている一因となっているようだ。
(浅野 宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2007.10.01
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