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小康状態の健保組合財政
●  老健拠出金の減額で経常黒字基調
  医療費の高額化、高齢化に伴う老健拠出金や退職者拠出金の増加など健康保険組合財政を取り巻く環境が厳しさを増している。
  環境の悪化を反映して、健保組合の解散も多く、1992年に1,800を超えていた組合数は、2007年3月末では1,541にまで減少。加入者数(被保険者数と被扶養者数の合計)も最盛期の3,292万人から、同じく3,013万人へと1割近く落ち込んでいる。ただここ3年間は雇用の回復を反映して被保険者数は増加に転じている。
  下の図表は、全健保組合の経常収支の合計額の推移(2006年度は決算見込み)である。これまでは、年々赤字額が拡大し、その都度、保険給付の自己負担割合を引き上げることで赤字を解消してきた。1997年10月から自己負担割合が1割から2割に引き上げられ1996年度の2,000億円近い赤字からいったん脱している。
  2000年度は介護保険の創設によって医療費の一部が介護保険に肩代わりされて赤字が減少したが、その後再び増加、2003年4月に自己負担割合を3割に引き上げて経常黒字となった。
  2003年度以降は、健康保険法改正により老人保健拠出金が減額されているため、経常黒字が続いている。老健拠出金は健保の経常支出の25%を占めており、その増加が健保財政悪化の最大要因であった。2002年10月から老健拠出金の対象者の年齢が引き上げられて対象者が減少したことと公費負担が増えたこと、そして過年度に拠出した老健拠出金の精算があることが黒字の理由である。これにより健保組合財政は予断を許さないながら、小康状態といえる状況である。
  なお、もうひとつの拠出金である退職者拠出金は17%増の9,397億円となっており、拠出金全体では3%増となっている。
●  二極化進む健保財政
  もうひとつの傾向は、保険料率は平均で7.317%と2005年度比0.79ポイント低下したことである(ちなみに政府管掌健保は8.2%)。2005年度に保険料を引き上げた組合が65ある一方、引き下げた組合も251にのぼり、また政管健保以上の保険料率としている健保が267組合もあるなど、健保財政の二極化が進んでいる。ITやコンピュータ関連の業種の健保は、保険料率は低い。大型の総合健保の中には、保険料率を積極的に引き下げて、さらに優良な加入企業を増やし、スケールメリットを享受する戦略をとるところもある。それができない業種や健保組合では、財政悪化が進んでいる。
  厚生労働省は財政悪化健保に対して合併・統合による財政健全化を促すよう健康保険法を改正した。具体的にはこれまでは同業種間でしか認められなかった合併を同地域内でも認めることにした。しかし、その一方で政管健保の赤字を健保組合に負担させる案をもつなど、健保組合に対しては、厳しいスタンスである。
【図表 健保組合全体での経常収支の推移】
出所:健康保険組合連合会のウエブサイト
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、
CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2007.10.09
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