>  今週のトピックス >  No.1533
フィリピンの介護士養成の現場を視察
〜現地の就労・教育の受け皿拡大に期待〜
●  前向きなフィリピンの介護士
  10月中旬フィリピンに渡り、現地における介護士・看護師の育成・就労の状況を視察する機会をもった。日比経済連携協定(JPEPA)の締結により、早ければ来年度よりフィリピンからの介護士・看護師受け入れがスタートすることを念頭に置いての視察である。
  介護や看護にかかわるフィリピン人は世界の至る所で活躍しており、その分野における世界有数の人材排出国として知られる。研修現場で学ぶ人々と現地で話しをしてみると、その純朴な人柄や学業に取り組む熱心さ、そして何より異国の文化を積極的に理解しようとする前向きさに感心させられる。
  だが、世界一の後期高齢者人口を擁するわが国の現場で働くとして、ADLの低下や認知症などによって要介護状態になった人々の生活支援がどこまでできるのかを考えた場合、そのための技能を学ぶ研修レベルとしては、見た目にも決して高いとは言えない。
  彼らが現地の養成校などで学んでいるノウハウは、「多人数で一人の利用者を介護する」というスタイルが一般的で、使用する福祉用具なども資金力が乏しいゆえに旧式のものを使っている。日本の介護施設などでは、職員1人あたり3人の利用者を介護しなければならないという人員配置をとっており、そうした環境下で彼らの人柄や熱意がどこまで発揮できるのかという点には疑問符がつく。
●  日本人の介護現場でも活躍するフィリピンの介護士
  その一方で、日本の介護現場の実情に則した環境で実践を積むというチャンスもまた生まれつつある。定年退職した日本人を受入れ、フィリピンで老後を過ごしてもらうことを目的として作られたリタイアメント施設もその一つ。私が視察したのは、米軍が撤退した後の基地跡の建物やインフラを活用した施設で、要介護状態にあっても中長期的な滞在を可能としたものだ(ちなみに、フィリピンでは外国人による不動産所有は認められていない)。
  現在、ここでは30人近いフィリピン人の介護士が勤務しており、滞在している日本人高齢者の身の回りの世話や介護などを行ないながら、勤務時間外になると施設内で日本語の研修を受けることができる(日本で働く際に必須とされる6カ月間の日本語研修は、日本語検定2級レベルであれば免除されるが、その2級をすでに取得している人もいる)。
  つまり、この施設そのものが日本の介護現場を体験できる場であり、高いレベルの日本語教育も同時に受けることで、日本の介護に対して順応性の高い人材を育成することを可能にしているわけだ。現地で、彼らが書いた日本語の作文を読ませてもらったが、その整った文章や日本文化への理解度の高さに驚きを隠せなかった。
●  フィリピンの介護労働者の受け入れ体制を
  今回、国が示している受け入れスキームにおいては、日本での4年間の就労中に介護福祉士資格が取得できない場合、帰国しなければならないという点が「厳しすぎる」というフィリピン側の批判を生んでいる。その背景として、「帰国しても生計を立てるだけの就労の受け皿がない」という国内事情もある。
  だが、このリタイアメント施設のような日本人利用者のための施設が今後増えてくれば、ここを就労の受け皿として再び日本へ渡るチャンスも広がってくるだろう(その場合、フィリピン国内でも日本の介護福祉士試験が受けられるようにするという施策も同時に必要になってくることは言うまでもない)。
  もちろん、ハードルは決して低くない。カナダや台湾などといった国々における介護士の受け入れ条件は日本より遥かに緩やかで待遇も保障されている。優秀な人材がそうした国々に渡ってしまう状況をにらみつつ、日本としての介護労働者の受け入れ体制をもう一度考え直す時期に来ているのは間違いない。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.10.29
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