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実地調査中心の効率的な所得税調査が浮き彫りに
●  全体では1件平均115万円の申告漏れ
  近年の所得税調査の特徴は、高額・悪質と見込まれるものを優先して深度ある調査を重点的・集中的に行い、一方で実地調査までには至らないものは電話や来署依頼による“簡易な接触”で済ます調査方針にある。平成18事務年度の調査でも、調査件数では約3割の実地調査で、申告漏れ所得金額全体の9割強を把握しており、実地調査を中心とした効率的な所得税調査の姿が浮き彫りとなった。
  国税庁がこのほど公表した平成18事務年度の個人事業者などに対する所得税調査状況によると、今年6月までの1年間の所得税調査は、前年度に比べ1.5%減の79万5千件に対して行われ、うち72.3%にあたる57万5千件から2.3%増の9166億円の申告漏れ所得を見つけた。追徴税額は8.7%%増の1243億円だった。1件あたりの平均では115万円の申告漏れに対し16万円を追徴している。
●  特別調査・一般調査での1件平均は846万円
  実地調査における特別調査・一般調査は、前年度比16.7%増の6万3千件に対して行われ、うち87.3%にあたる5万5千件から同17.5%増の総額5337億円の申告漏れ所得を見つけ、995億円を追徴した。特別調査・一般調査は、件数では全体の7.9%に過ぎないが、申告漏れ所得金額全体の58.2%と6割近くを占めた。調査1件あたりの申告漏れは、前年度を1.3%上回る846万円と、全体の平均115万円を大きく上回る。
  また、実地調査に含まれる着眼調査(資料情報や事業実態の解明を通じて行う短期間の調査)は、調査件数全体の23.0%の18万3千件行われ、うち80.9%の14万8千件から3281億円の申告漏れを見つけ、153億円を追徴した。1件あたり平均申告漏れは180万円。
  そのほか、簡易な接触は、55万件行われ、うち67.6%の37万2千件から548億円の申告漏れを見つけ95億円を追徴。1件あたりの平均申告漏れは10万円だった。
  このように、実地調査では、全体の約3割の調査件数で申告漏れ全体の9割強を把握しており、高額・悪質な事案を優先して深度ある調査を的確に実施する一方、短期間で申告漏れ所得等の把握を行う効率的・効果的な所得税調査が実施されている。
  なお、業種別1件あたりの申告漏れ所得高額業種は、「キャバレー」が2769万円でトップ、これまで5年連続のトップだった「貸金業」(2648万円)、「風俗業」(2113万円)までがワースト3となっている。
●  譲渡所得調査では3342億円の申告漏れを把握
  一方、譲渡所得調査も、不動産等の売買情報など、あらゆる機会を利用して収集した各種資料情報を活用して、高額・悪質と見込まれるものを優先して行われている。国税庁のまとめによると、今年6月までの1年間の譲渡所得調査は8万1253件に対して行われ、うち61.2%にあたる4万9697件から3342億円の申告漏れを把握した。
  前年度に比べると、調査件数は20.9%増、申告漏れ件数は34.7%増、申告漏れ所得金額も26.8%増といずれも大幅に増加した。収集した資料情報の活用により深度ある調査が展開されたことがうかがえる。調査1件あたりの申告漏れ額は411万円(前年度392万円)となるが、この額は、上記の所得税調査における実地調査で把握された1件あたり平均の申告漏れ額351万円を上回る数字となっている。
  特に株式等譲渡所得については、前年度比63.0%増の3万608件の調査を実施。うち66.8%にあたる2万431件(前年度比93.4%増)から総額1242億円(同61.2%増)の申告漏れ所得を把握した。調査1件あたりの申告漏れ所得は406万円。株式等譲渡所得調査については、平成17年ごろからの株価上昇も踏まえ、申告分離・無申告事案にも注力しており、大きな成果を上げている。
参考資料:「平成18事務年度における所得税及び消費税調査等の実施状況について」(国税庁)
(http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2007/1012/01.htm)
(浅野 宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2007.10.29
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