>  今週のトピックス >  No.1541
動き始めた医療と介護の大幅な変革
〜現場へのしわ寄せは何をもたらすか〜
●  病院から在宅への流れが加速
  来年度の予算編成をひかえて、社会保障費をめぐる攻防が激しさを増している。周知の通り、政府は社会保障費の自然増から年間2200億円の圧縮を打ち出しているが、先の参院選で与党が敗北して以来、高齢者医療費の負担増を凍結するための補正予算を組むなどの動きが強まっており、その支出増の穴埋めをどこに持ってくるかが焦点となっている。
  まずは2008年度に控えている診療報酬の改定だが、これをとにかく削減するという方向性が強まってきた。例えば、勤務医に比べて報酬面や労働環境面で恵まれているとされる開業医について、定時診療における報酬を大幅にカットし、時間外診療の報酬を手厚くするという提案が持ち上がっている。
  また、点眼や簡単な湿布貼りなどといった、家族でもできる処置については診療報酬の対象から外すという方針も打ち出された。これにより、開業医としては夜間の救急外来などに力を入れざるをえないという流れが強まることになる(もちろん、医師会などは強く反対しており、決して実現はたやすくない)。
  いずれにしても療養病床の大幅削減という既定路線が進む中で、病院から地域へという患者の移動はますます強まることになる。当然、地域の開業医などが夜間の往診を強化するなどの対応をもって受け皿とならざるをえないわけだが、ここで開業医のモチベーションをいかに高めていくかという舵取りを間違えれば、特に高齢化率の著しい地方において医療崩壊が進むことになりかねない。
●  診療報酬の削減による影響は、介護分野へも
  こうした診療報酬の削減による影響は、同時に介護分野へのしわ寄せを生む。次期介護報酬改定は2009年度になるが、前年度の診療報酬の行方次第では、訪問看護や通所看護、居宅療養管理指導などのサービスを手厚くするという流れになる可能性がある。
  ただし、単なる医療費削減の受け皿として介護保険サービスのあり方が設定されてしまうとすれば、現場に対するマイナスの影響が浮かび上がることになるだろう。
  すでに療養病床からの転換の受け皿として、医療機能強化型の老人保健施設が新たな介護報酬対象としてスタートすることになっているが、従来の療養型病床群から流れてくる利用者の医療ニーズを読み誤ると医療事故あるいは介護事故の温床になりかねない。ただでさえ、人手不足によって経験の浅い人材に頼らざるをえない介護現場において、どこまで重篤な利用者を安全に受入れることができるのか。細部にわたる検証が必要だろう。
●  「介護サービス事業の実態把握のためのワーキングチーム」誕生の背景
  実は、厚生労働省の介護給付分科会では、「介護サービス事業の実態把握のためのワーキングチーム」なるものがスタートしている。これは、介護現場における労働環境や人材の質についての検証を進めるというもので、スタートから3回は各サービス事業者団体からのヒアリングが実施されている。
  こうした専門のワーキングチームが設置されたという背景には、介護現場の人手不足という事象への対処もさることながら、先に述べた「医療から介護へ」という利用者の移動が政策立案側の頭にあることは間違いない。いま、わが国の医療と介護の行方は、私たちが想像する以上の正念場を迎えている。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.11.12
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