>  今週のトピックス >  No.1549
「混合診療の全面解禁」が加速!?
〜各界に波紋を呼ぶ、東京地裁判決〜
●  混合診療とは
  わが国の公的医療保険において、かねてから議論の的となっているテーマに「混合診療の全面解禁」がある。現在、保険給付の対象となっている診療と給付対象外の診療(自由診療)が一連の医療として提供される場合、保険給付の対象となる診療も原則として給付対象外となり、患者は医療費を全額自己負担しなければならない。混合診療は、これら自由診療部分と保険適用診療部分とを分け、保険適用部分に給付を行うものであり、現在でも一部高度先進医療などが提供される場合には、例外的に混合診療が認められている。
●  東京地裁判決が示すこと
  この混合診療に関する議論が、この1カ月ばかりの間に大きな動きを見せている。発端は、11月7日に東京地裁が「混合診療の禁止に法的根拠はない」という判断を示したことだ。神奈川県在住のがん患者が、「保険適用内の診療と自由診療を受けた際に、その費用を全額請求されたのは健康保険法に違反する」として訴えを起こしたところ、地裁はこの訴えを認め、「保険適用部分の診療には受給の権利がある」という判決を申し渡した。先の「法的根拠はない」という判断は、この判決に示されたものである。
  医療保険制度をつかさどる厚生労働省にとっては極めて厳しい判決となったわけだが、同省はこの判決を不服として16日に東京高裁に控訴した。奇しくも同訴訟においては、薬害C型肝炎の患者に対する治療法であるインターフェロンが絡んでおり、二重の意味で高い関心を集めることとなった。
  地裁の判決からわずか1週間後、政府の規制改革会議は12月にまとめる第二次答申において、混合診療の全面解禁を重点項目に含めることを明らかにした。経済人を主たるメンバーとする規制改革会議は、その前身である規制改革・民会開放推進会議の時代から混合診療の解禁を提言し、2006年の医療制度改革において混合診療の例外適用の範囲を広げるという流れに至っている。この流れをさらに推し進めるうえで、今回の地裁判決はまさにベストタイミングと言えるだろう。
●  保険適用範囲の現実
  これに対し、厚生労働省をはじめ、日本医師会や難病・疾病団体は全面解禁に強く反対する姿勢を崩していない。医師会などが反対している理由としては、@政府は財政難を理由に保険給付範囲を見直そうとしており、その流れで混合診療の全面解禁を行えば保険適用外の範囲がさらに広がる可能性がある、Aその場合、お金のある人・ない人の間で受けられる医療に大きな差が生じてしまう、というものだ。そのうえで、「保険適用の範囲についてオープンで速やかな審査・承認を行いつつ、その範囲を広げていく」ことがスジという論陣をはっている。
  保険適用外の範囲が広がるといえば、やはり経済界の意向が強い経済財政諮問会議により、保険免責制の導入が検討されたという経緯を連想させる。公的保険の適用範囲を絞り込む流れは、日本の社会保障制度がアメリカ型に近づきつつあるという未来予測とあいまって、厚労省や医師会の主張に一定の説得力を持たせていると言えるだろう。
  だが、保険適用の審査が非常に厳しく新薬等がなかなか認められないという現実を前に、残された時間に限りがあるがん患者等にとっては、混合診療の解禁に望みをかけざるをえないというのも事実だ。国民皆保険制度を維持する一方で、患者側の素朴な願いを考慮する姿勢があるのなら、厚労省や医師会の側ももう一歩踏み込んだメッセージを発していくべきではないだろうか。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.11.26
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