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政府税調答申、消費税を社会保障財源の中核として位置付け
●  消費税率引上げは2008年度以降の政治判断
  政府税制調査会は11月19日、税制によって社会保障制度を支える安定的な歳入構造を確立することが喫緊の課題とし、安定的な財源を確保する上で消費税が重要な役割を果たすべきだとして消費税率引上げの必要性を明記した答申を公表した。
  ただし、福田首相はすでに来年度の消費税率引上げを見送る考えを表明しており、答申でも税率の引上げ幅や増税時期は示しておらず、2008年度以降の実施のタイミングは「政府において適切に判断されることを求めたい」として政治判断に委ねている。
  今回の答申は「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」と題し、消費税は、(1)社会保障の財政需要を賄えること、(2)経済の動向や人口の構成に左右されにくいこと、(3)世代間の不公平の是正に資すること、(4)勤労世代など特定の者への負担が集中せず、貯蓄や投資を含む経済活動に与える歪みが小さいこと、などの特徴を挙げ、税制における社会保障財源の中核を担うにふさわしいとの考えを示した。
  また、消費税が所得に対して逆進的との批判に対しては、「社会保障を含む受益と負担を通じた全体で所得再分配に寄与する」として、消費税で社会保障の安定的な財源を確保することが再分配政策上も大きな意義があると反論。そのほか、軽減税率については、再分配政策としての効果が乏しく、制度の簡素化、経済に対する中立性、事業者の事務負担、税務執行コストを考慮すれば極力単一税率が望ましいとの否定的な見解を示した。
●  証券税制は軽減税率を廃止し「金融所得課税の一体化」へ
  消費税以外でも、経済社会の構造変化に合わせた抜本改革の方向性を示した。個人所得課税は、所得再分配機能が低下していると指摘。所得再分配による格差是正に向けて、就労の中立性を阻害している配偶者控除を始め、特定扶養控除、給与所得控除、退職所得などの見直しを求めた。
  また、相続税についても、バブル期の地価高騰に合わせて基礎控除を引き上げ相続税負担が大幅に緩和された結果、年間死亡者数のうち相続税の課税が発生する割合は4%程度まで減少するなど、資産再分配機能が低下し、資産格差が次世代へ引き継がれていると指摘。基礎控除の水準の引下げや課税対象の範囲を拡大するなどの見直しを求めた。
  来年度末で期限切れとなる証券税制の軽減税率(10%)の特例は廃止し、金融所得間の課税方式の均衡化と損益通算の範囲拡大を柱とする「金融所得課税の一体化」への移行を提言した。そのほか、経済界から要望の強い法人実効税率(約40%)の引下げについては、法人課税の国際的動向に照らしても必要との意見は多かったものの、当面は、研究開発税制を始めとした政策税制の効果的な活用に重点を置くとして、先送りしている。
●  早急に検討が必要な消費税率引上げ
  政府税調は、社会保障の安定財源確保を始め、経済社会の構造変化に合わせた抜本改革が遅れれば遅れるほど、解決困難な課題が膨れ上がってしまうとして、抜本的税制改革の可能な限り速やかな実現を求めた。
  しかし、参院で与野党が逆転する"ねじれ国会"の影響から、抜本改革は先送りの状況にあり、答申に盛り込んだ個々の事項を2008年度以降に実施していくタイミングについては、「今後、政府において適切に判断されることを求めたい」として政治に下駄を預けた形だ。もっとも、2009年度に基礎年金の国庫負担割合を現在の3分の1から2分の1に引き上げることは既定路線となっていることから、消費税率引上げも早急の検討が必要なことに変わりはない。
参考資料:政府税調の答申http://www.cao.go.jp/zeicho/tosin/pdf/191120a.pdf
(浅野 宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2007.11.26
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