>  今週のトピックス >  No.1565
介護労働者の確保に向けた現場の変化
〜介護報酬改定に向けた議論を動かすか〜
●  介護従事者確保の現状
  最近、主に地方都市の高齢者介護施設などを取材していて、現場の従事者確保についてちょっとした変化を感じることがある。介護従事者の人手不足は相変わらずという状況だが、そうした中で、(1)離職率の高低が施設によって二極化しつつあること、(2)介護職採用に関して専門学校のほか、短大や4年制大学までターゲットを広げるケースが増えていること、という2つの傾向が浮上してきた。
  (1)については、まったく似たような環境要因であるにもかかわらず、片や年間離職率が3割に達する施設もあれば、ここ数年0%に近いという施設もある。(2)については、近隣の介護士養成校などの学生不足が顕著となり、より幅広い人材市場に目を向けざるをえなくなったという背景を聞くことが多い。
●  介護労働離れ
  この2つの取材実感を裏づける報告が、厚生労働省からも提出されている。
  まずは、社会保障審議会の介護給付分科会に設けられている「介護サービス事業の実態把握のためのワーキングチーム(WT)」において。12月10日に開催された第4回会合では、過去3回の現場からのヒアリングをもとに作成された「介護サービス事業の経営の安定化・効率化と介護労働者の処遇向上を図るための今後の検討課題について」と題する報告書が提出された。
  そこでは、「介護職員とホームヘルパーを合わせた離職率(20.3%)は、全産業平均(16.2%)よりも高い水準にある」という従来の分析に加え、「離職率については、高い事業所と低い事業所との二極化が見られる」と指摘されている。その上で、「離職率の高い事業所と低い事業所についてそれぞれの要因を分析し、定着率の向上に活かすべきではないか」、「事業所の労働条件、キャリアアップ、福利厚生、安全衛生管理等といった労働環境に関連する項目を事業所が情報開示することを検討する必要があるのではないか」という考え方の提案がなされている。
  一方、(2)については、やはり厚生労働省が発表した「介護福祉士養成校と入学者数の変化」という統計に現状がよく現れている。統計では06年度と07年度の比較が行われているが、06年4月の入学者数が1万9289人であるのに対し、07年4月段階では1万6696人にまで減少している。養成校自体の数は微増しているが、入学者数はたった1年で13%以上落ち込んでいる計算になり、養成校自体の経営も危機的状況にあることがうかがえる。
  これについて、先のWTの報告書では「好況経済化で労働市場全体が逼迫(ひっぱく)し、介護労働者のなり手が減っているのではないか」や「介護労働者の処遇や社会的評価の低さにより介護労働離れが進んでいるのではないか」という分析がなされている。その上で、人事労務管理のあり方を見直すべきではないかという旨にも言及されている。
●  今後の介護報酬改訂へ向けて
  以上の報告や分析を見てみると、労働者の給与原資となる介護報酬の増額はあまり想定されておらず、むしろ労働環境面の改善や人事労務のあり方を見直しつつ、介護労働者の確保を目指すという流れに落ち着きそうな気配である。確かに社会保障費の大幅増を見込むことは難しいだろうが、すでに診療報酬の基本部分の増額などがほぼ決定している中、介護報酬についても09年度改定に向けた「増額圧力」が高まることは間違いない。
  冒頭で述べた「ちょっとした変化」というのは、いわば介護事業所や施設が自助努力を始めたことを示すが、それは同時に「こっちはそれなりに努力しているのだから、財政的にも支援してほしい」というボールを国側に投げ返す力が強まることも予測させる。年明けから本格的に始まる介護報酬改定の議論は、相当に白熱するものと思われる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2007.12.25
前のページにもどる
ページトップへ