>  今週のトピックス >  No.1573
公立病院改革へ向けたガイドライン策定〜医師不足に端を発した地方医療の危機〜
●  公立病院の経営悪化
  地方の疲弊が様々な分野で叫ばれているが、特に象徴的なのが公立病院の経営悪化だろう。
  引き金となったのは04年に改正された臨床医研修制度である。この制度改正によって研修医の臨床研修が義務づけられ、研修先の病院は研修医が自由に選べることになった。
  それまで研修医の多くが大学病院で研修を受けていたが、より高待遇の一般病院を選択するケースが急増。研修医という格安の“労働力”に頼る部分が大きかった大学病院は人手不足となり、地方の公立病院などに派遣していた医師を呼び戻す。結果、地方の公立病院は収益を確保するのに必要な医師が足りなくなるという事態に陥ったのである。
  事実、03年度末までは全国の公立病院の不良債務額は500億円程度だったのに対し、04年度以降急増。これに昨今の診療報酬引き下げが拍車をかけ、07年度には不良債務額が1,000億円を突破する勢いにある。
  この悪化する公立病院経営について、待ったなしの状況を生み出したのが07年に成立した地方自治体財政健全化法である。自治体の財政悪化をいち早く把握するべく、財政状況の指標を見直すことが目玉となっているが、その中に一般会計と公立病院を含む公営事業の会計を連結させるという旨が含まれている。つまり、公立病院の経営悪化がそのまま地方財政の指標を悪化させることになるわけだ。
●  総務省、公立病院改革ガイドライン
   悪化する一方の公立病院経営をいかに建てなおすか。本来、地方医療にかかわる分野は厚生労働省の管轄であるが、こと地方財政に波及するとなれば総務省が乗り出すことになる。その総務省が07年12月にまとめたのが、公立病院改革ガイドラインだ。
  このガイドラインの大筋としては、各地方公共団体は08年度内に公立病院改革プランを策定することとし、プランの道筋として(1)経営効率化をめざす場合は3年、(2)病院再編や経営形態の見直しまで踏み込む場合は5年を目途とすることが示されている。
  (1)の経営効率化については、一般会計からの繰り出し後に経常黒字が達成される水準を目途とし、病床利用数が過去3年連続して70%未満の病院については病床数の抜本的見直しを図るというもの。(2)については、病院間の機能重複を避け、統合・再編を含めて検討、さらに指定管理者制度の導入や民間譲渡などを検討するという選択肢も示している。
  注目されるのは、公立病院改革にかかる財政措置である。この中で、再編・ネットワーク化や経営形態の見直しにかかる精算等に要する経費について、先に述べた「医師不足の深刻化等によって発生した不良債務」を長期債務に振り替える公立病院特例債を発行できるとしたのだ(利払いに関しては特別交付税措置を講ずるとしている)。大胆な経営改革に踏み込ませるための誘導策ではあるが、いわば「借金返済の先送り」というスタイルをとることに中途半端な感が否めない。
●  地方医療体制の再構築
  重要なのは、医師不足に始まる地方の医療体制への不安を一掃し、住み慣れた地域で安心して住み続けられる仕組みを再構築することにあるはずだ。となれば、赤字を生み出してきた医師不足を解消するための抜本策をセットで提示しつつ、地域の医療ニーズをくみ上げたうえで国が大胆に財政投与を図っていくことが必要ではないだろうか。
  かつて金融危機が勃発した際、特別危機管理の一環として金融機関の国有化が図られたことがある。金融と医療とは性格が異なる分野であるとはいえ、国民不安に直結するという点では同義だろう。それだけの国家的な危機であるという認識が、政府内にあるのかどうか。残された時間は決して多くない。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.01.15
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