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民主党が介護労働者の人材確保法案を提出
〜3%の賃上げ財源をどこに求めるか?〜
●  今国会の注目の「介護労働者の人材確保特別措置法案」
  150日にわたる通常国会がスタートした。当面は、ガソリン税の暫定税率を維持するか否かという政策論点が浮き彫りになっているが、それ以外にもさまざまな法案や政策機会を通して与野党がぶつかり合おうとしている。
  厚生分野に目を移してみると、いわゆる「宙に浮いた」年金記録の照合の期限を3月にひかえ、その特定が完了するか否かという問題がクローズアップされている。だが、もっと細かい法案に目を配ってみると、いろいろと興味深いものがあることに気づく。
  その一つが、民主党が衆院に提出した「介護労働者の人材確保特別措置法案」である。
●  「介護労働者の人材確保特別措置法案」の問題点
  周知の通り、介護現場における人材不足は深刻な状況にある。介護報酬が頭打ちの上、昨年のコムスン問題によって業界イメージも悪化し、1年の離職率が2割を超える中、新規入職者やパートのホームヘルパーなどが集まらない状態が続いている。療養病床の削減等によって介護保険利用者の重篤化が予想される中、介護現場の人材確保は年金と同様、緊急性の高い政策課題となってきた。
  そこで登場した本法案であるが、骨子としては、介護労働者の平均賃金の見込額が一定基準を上回った事業所に対して、介護報酬を加算することを義務づけるというものだ。
  具体的には、介護報酬の加算を3%に設定する。仮に、全事業所が加算対象と認定された場合には、介護労働者約80万人について月額平均2万円の賃金アップが可能になるという試算がほどこされている。例えば、男性の施設介護員(非正規含む)の場合、年間平均賃金は約227万円で、全産業平均と比べて約140万円の開きがある。このギャップを月2万円の増額だけで埋めることは困難だが、少なくとも職業生活を維持するうえでは最低限のベースを構築することはできるだろう。今国会では、冒頭の代表質問において、与党側からも「介護現場の人手不足」に言及する場面があった。与野党問わず、この問題が深刻化しているという認識が強いことを示し、その意味で意外に歩み寄りが期待できる政策かも知れない。
  問題は、介護報酬の加算を生み出すための財源をどこに求めるかという点だ。法案を提出した民主党の試算では、適用事業所を50%と見積もった上で、それらの事業所に3%の加算が発生した場合、必要な財源規模を900億円と見積もっている。介護報酬の50%は40歳以上の介護保険料でまかなわれている点を考えれば、単純計算で450億円分の保険料アップが必要となる。
  だが、法案では加算分の財源に保険料を新たに充てることはせず、しかも利用者側の1割の自己負担にも反映させない(介護保険財政からの10割負担)旨が盛り込まれた。要するに、3%の加算分をすべて税財源に求めるというわけだ。当然、介護保険財政の構成を見直すことが必要となり、それは介護保険法の改正もセットで行うことを意味する。
●  税財源の比率を広げる方向性
  実は、同法案のミソはこの「財政構成に例外を設ける」という点にあると言える。介護報酬が頭打ちにある中、手厚い介護のためには介護保険料や利用者負担の増加という「痛み」の議論が常につきまとう。だが、例外とはいえ、税財源の比率を広げる方向性を模索されるなら、議論のあり方は大きく変わってくるだろう。つまり、高齢者介護について、社会保険から公的扶助へと方向転換する“蟻の一穴”になる可能性があるわけだ。
  もちろん、来るべき超高齢社会において財政破綻を防ぐべく、介護に「共助」の仕組みである社会保険を導入した経緯がある。それを逆行させて税財源の幅を広げることになれば、将来的には消費税増税の議論にもつながってくるであろう。そのあたりを頭に入れつつ法案の行方を注視すれば、この国の進むべき方向も見えてくることになる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.01.28
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