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訪問介護の「生活援助」制限に厚労省が通知
〜現場の声が介護保険施策を動かした!?〜
●  訪問介護の給付制限強化
  2006年に介護保険制度が改正されて後、財政健全化という流れのもとで様々な給付抑制策がとられている。中でもサービス提供の現場を揺るがしたのが、訪問介護における生活援助サービスの制限強化であろう。
  簡単に言えば、利用者に同居家族がいる場合、原則として生活援助サービス(洗濯や掃除、調理といった家事を支援するサービス)の提供を認めないというものだ。厚生労働省としては、06年改正にともなって「給付条件を厳しくする」という通達を出したことはないとたびたび名言している。ところが、保険者である全国の市町村が、現場サイドにおいて「同居家族がいる場合の一律の制限強化」を進めているというものだ。
  こうした給付制限に対し、全国の利用者やサービス事業者、および従事者からは反発の声が日増しに高まっていた。そして08年2月に入り、ようやく厚生労働省が全国都道府県に対し、「同居家族がいることを理由に一律に生活援助をカットすることはしないように」という異例の通知を出したのだ。
●  介護の現場の声
  今まで、どちらかといえば「知らぬ存ぜぬ」だった厚労省の姿勢が一変したのには、実はいくつかの布石がある。08年1月下旬、介護保険制度を考えることを主旨とした市民団体が、業界の主だった有識者を集めて国会内で集会を開いた。そこでは与野党の政治家も呼んだうえで、介護サービスの現場で起こっている様々な問題点が報告された。
  この集会の約半年前、同市民団体は利用者や現場のサービス提供者からの悩みや不満などを聞くホットラインを開設。そこから上がった声の中からいくつかのテーマを取り出して、介護専門誌上で座談会も開催した(筆者も座談会に参加した一人である)。そこで特に大きなテーマとなったのが、先に述べた「生活援助の制限」であった。
  こうした動きの中で、市民からの声をまとめあげ、今国会集会につながったわけだが、こうした動きを無視できなくなったということなのだろう、その翌日に行なわれた厚労省の社会保障審議会において、有力委員の一人が強い口調で事務局に迫った。「同居家族がいる利用者への生活援助制限は、介護保険法の趣旨に反する。明らかな法令違反だ」
  この発言を受けてなのかどうかは不明だが、その翌週までに厚労省は今回の通知を実施することになった。現場からの切実な声が国を動かしたという点で、介護保険施策における大きな転換点となる可能性もある。
●  制限緩和の今後の行方
  だが、現場の混乱はこれで治まるのかどうかは不透明だ。そもそも市町村側が生活援助の制限に走っている根拠というのは、介護保険スタート時に厚労省が示した「同居家族がいる場合の生活援助については、家族が障害や疾病“など”によって家事が困難である場合に適用する」という基準を示している。問題はこの“など”をどのように解釈するかによって、適用が極めて厳しくなる余地を残してしまったということだ。
  先に述べた座談会において、現場のケアマネジャーから聞いた話としては、「同居家族がいる場合の生活援助について、サービス提供をするための理由書をケアプランに付けなければならない。そこには、家族に障害、疾病がある場合以外に、その他の理由という項目があり、そこに『同居家族がいてもなぜ生活援助が必要なのか』を書き込む必要がある」というものだ。その書き込んだ理由について、市町村側が厳しく精査しているのが、今回の制限抑制の背景にあるという。
  果たして、今回の通知で制限が緩和されるのかどうか。6月に再び利用者からのホットラインが設立される予定だが、そこから上がってくる声に着目したいと思う。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.02.12
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