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税制改正施行前に遡る適用は違憲か合憲か
〜福岡地裁と東京地裁とで分かれた司法判断
●  当時、批判が続出した不動産譲渡の損益通算の廃止
  税制改正を施行前に遡って適用することの是非をめぐって福岡地裁が違憲、東京地裁が合憲との異なった判断を示し、上告審の動向が注目されている。
  土地・建物などの譲渡損失と他の所得との損益通算の廃止を盛り込んだ2004年度税制改正が施行されたのは2004年4月1日だが、損益通算の廃止は同年1月1日に遡って適用された。当時、納税者の負担増となる改正の遡及適用に、実務家の間で波紋を呼び批判が続出した。
  というのも、改正の要旨が公表された与党の税制改正大綱が発表された2003年12月17日から、遡及適用予定の2004年1月1日までわずか2週間しかなく、駆け込み的に不動産を売却しようとしても時間がなかったからだ。与党大綱にも唐突に盛り込まれた感があるが、納税者にとってみれば、せめて改正法施行から1年程度の猶予期間をとって適用してほしいというのが大方の本音だったろう。
●  改正が周知されていなかった〜福岡地裁
  この損益通算の廃止の遡及適用によって不利益を受けたとして処分の取消を求めた納税者に対し、福岡地裁は1月29日、租税放棄不遡及の原則に違反し、違憲として、納税者の主張を認める判決を下した。
  同地裁は、納税者の不利益となる租税法規の遡及適用については、憲法上それを禁じる明文規定はなく、例外的には許容されるとした上で、改正の遡及適用が、例外的に許される場合か否かを審理している。
  その結果、損益通算目的の駆け込み的不動産売却という弊害を防止する目的という観点からは、遡及適用の合理性・必要性を認めつつも、不利益を被る国民の経済的損失が多額に上る住宅の取得に係る改正であり、その改正の周知期間の短さから、改正の内容が周知されていたとはいえず、国民の予見可能性を与えない形で行うことまでも許容するものではないことなどを理由に、遡及適用は違憲と判断した。
●  遡及適用の予測可能性がなかったとまではいえない〜東京地裁
  一方、同様の訴訟で東京地裁は2月14日、改正の要旨が公表された与党の税制改正大綱が発表された2003年12月17日直後に、土地・建物等の売却を勧める不動産会社や税理士等が少なからずいたことを指摘し、改正の適用時期が遅くなれば、含み損を抱えた不動産の安値での売却が促進される危険があったとして、遡及適用の合理性・必要性を認め、遡及適用を合憲とする国側勝訴の判決を下した。
  また、納税者の予測可能性についても、損益通算が認められなくなる日までわずか2週間であったにせよ、その間の新聞報道等から、2004年1月1日以降の土地・建物等の譲渡について損益通算ができなくなることを、納税者があらかじめ予測できる可能性がなかったとまではいえないとの判断を示した。
  福岡地裁の事案はすでに国側が控訴しており、東京地裁についても納税者が控訴することが予想され、今後の成り行きが注目される。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2008.03.03
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