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介護療養型老人保健施設の報酬が決まる
〜療養病床からの転換は果たして進むのか〜
●  療養病床と従来型の老人保健施設の中間的位置に設定の「介護療養型老人保健施設」
  3月3日に開催された厚生労働省の社会保障審議会において、療養病床削減の受け皿として創設される「介護療養型老人保健施設」(療養病床から転換した介護老人保健施設を対象とする)についての介護報酬額、および転換に際しての設備・人員基準が了承された。
  例えば、最も手厚い人員配置(看護師6:1以上、介護職員4:1以上)を実現している介護保険適用の療養病床の場合、要介護5の人を多床室に入所させていると1日あたりの介護報酬の基本部分は1,322単位である。これを同じ人員配置で介護療養型老健に転換した場合は、1,046単位となる。ちなみに、従来型の老人保健施設は990単位。つまり、介護療養型老健は、療養病床と従来型老健のほぼ中間の介護報酬に設定されたことになる。
  療養病床は、急性期を過ぎた患者が相応の期間、慢性期における必要な医学的管理を受けつつ療養するという施設である。その中には医療そのものの必要度が低い利用者も含まれ、そうした利用者も長期間入所することによって社会的入院が助長されてきたというのが、今回の療養病床削減の背景となっている。
●  療養病床削減の背景
  一方で、急性期医療の必要度が低いとはいえ、それぞれの状態に応じて必要となる医学的管理のあり方には差が大きい。常時喀痰吸引の必要な人、夜間などの急性増悪のリスクが高い人、さらには質の高い終末期ケアが必要な人……こうした多様な状態像に対して、個々に的確な処置をほどこしていくことでサービスの適正化を図るというのが国の考え方だ。そのため、基本報酬は従来型よりも低く抑えつつ、個々に必要なサービスごとに加算をつけるスタイルを明確に打ち出している。
  例えば、終末期の看取りを対象としたターミナルケア加算については、相応の条件を満たした場合に死亡日以前30日を上限として1日に240単位を基本報酬に上乗せする。在宅復帰を本来的なビジョンとした従来型の老人保健施設にはない加算であり、その意味では利用者個々の状態に応じてサービスのインセンティブを働かせていこうというわけだ。
●  利用者側の不利益とは
  基本報酬だけを見るなら、現在入所している利用者側にとっては確かに負担減となる。だが、負担が軽いということと、新規の利用機会が増えるかというのはまったく別の問題だ。仮に、ニーズに対してサービス供給量や利用条件が厳しく制限されることになれば、利用者側にとって大きな不利益も生まれる。
  例えば、経営面から見てみよう。個々のサービスごとの加算スタイルを強めるということは、加算対象となることが明らかな利用者を集中的に集めようとする力が働くことにほかならない。それは、従来型の療養病床よりも重篤化した利用者が集中することが、状況次第で起こりうることを意味する。それを見越したとき、この介護療養型老健が結果的に健全な経営を保てるかとなれば、しり込みする病院経営者も出てくることが予測される。
  現在、療養病床をどうしようかと迷っている病院経営者にしてみれば、「(高い利用料がとれる)富裕層を対象とした病院併設型の有料老人ホームなど(これも療養病床の受け皿の一つと想定されている)に着手した方がいい」と考える可能性もある。そうなれば、長期療養施設を利用できる層は貧富の格差によってはっきり分かれることになる。
  審議会の委員からは「特養ホームなどへの医療法人参入、あるいは在宅診療などの受け皿を早急に進めるべし」という声が相次いだ。その裏には、「今回の報酬を見て、仮に介護療養型老健への転換を躊躇する療養病床が増えれば、通院が難しい状態にある高齢患者がことごとく医療難民となる」という強い懸念がある。高齢者を中心とした地域の医療整備は、スピード勝負の様相を呈してきたといえる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.03.10
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