>  今週のトピックス >  No.1613
社会保障審議会「少子化特別部会」スタート
〜1.25ショックから2年、求められる施策〜
●  「少子化」をめぐる課題
  少子高齢化に対する福祉施策を語る場合、どちらかといえば「高齢者をめぐる医療・介護・年金」の課題がクローズアップされがちである。だが、「少子化」をめぐる課題も、依然として深刻であることに変わりはない。
  2005年に、いわゆる「1.25ショック」といわれる過去最低の合計特殊出生率が記録された後、その翌年には1.32まで持ち直したものの、07年は再び下降に転じたとされている。政府としても、今国会冒頭の福田総理大臣の施政方針演説において「新待機児童ゼロ作戦」を打ち出すなど、急速な力の入れ具合が目立つようになってきた。
●  少子化対策特別部会スタート
  そうした中、厚生労働省の社会保障審議会でも少子化対策特別部会がスタートし、月2回程度のペースで有識者の議論を経たうえで、5月に「次世代育成支援のための新たな枠組みの基本的な考え方について」と題した取りまとめを行うことになっている。
  なお、現国会では児童福祉法等の一部を改正する法律案が審議中である。同法案では、一部自治体で試行されている「生後4カ月までの乳児家庭の全戸訪問」を全国一律に実施したり、乳幼児を「保育ママ」と呼ばれる保育者の居宅において保育する「家庭的保育事業」を法律的に位置づけるなど、新たな具体的施策が随所に見られる。その多くは、出生率をV字回復させたデンマークなどで取り入れられている施策も参考にしており、乳児期の虐待事例などが目立つ昨今、一定の即効性を期待できるものであるといえる。
  だが、新待機児童ゼロ作戦や児童福祉法改正による新施策による効果は限定的という声も少なくない。3月14日に開催された少子化特別部会におけるフリーディスカッションでは、合計特殊出生率の下落率が05年段階で最も著しかった徳島県のその後の取り組み状況などが紹介された。徳島県では、厳しい数字を記録した後、出生率低下の原因を徹底調査したという。それによれば、(1)結婚適齢期の男女の出会いの機会がない、(2)非正規雇用の拡大によって現状の経済状況では「生みたくても生めない」という結果が出た。
  つまり、保育などの育児環境を整える以前の問題として、日本の経済的・社会的構造の問題が少子化に拍車をかけている現実が浮かび上がってきたわけだ。この報告を受けて、非正規社員の正規社員への移行促進や、非正規雇用のカップルでも子どもが持てる経済的支援などの必要性がとなえられた。
  また、保育サービスの充実に関しても、現場の保育士が低賃金・重労働という、高齢者介護とまったく似たような状況にある実態がとりあげられた。この問題についてきちんとした実態把握が行われずに、量的緩和による待機児童ゼロだけを進めても、様々なひずみが現場を襲うという懸念も提示された。
●  高齢者介護における介護保険と似た保育仕組み
  昨年12月の規制改革会議における「規制改革の推進のための第2次答申」では、「(育児サービスについて)社会保険制度(育児保険等)への転換についても検討すべきである」という一文に加え、「家庭ごとの“保育度”を設定し、公的補助で賄われる保育サービスの利用量の上限を設定する」ことまでが提案されている。高齢者介護における介護保険と似たような仕組みが、保育においても導入される可能性が高まっているのである。
  少子化をめぐる施策の流れが劇的に変化しつつあるいま、それが果たしてどれだけの効果を得ることができるのか、社会的な弊害はないのかどうか、専門家だけでなく一般父母や保育労働者をまじえた検証が求められる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.03.24
前のページにもどる
ページトップへ