>  今週のトピックス >  No.1621
訪問看護事業者の経営に黄信号〜在宅療養を支えるサービスの厳しい実態〜
●  訪問看護事業の実態
  2009年度にひかえる介護報酬改定に向け、厚生労働省の社会保障審議会・介護給付分科会での議論がいよいよ本格化する。その前段階として、3月25日に開催された同会では、いくつかの事業者団体より議論の叩き台となるデータや提案が提出された。中でも目をひいたのが、訪問看護事業の実態である。
  療養病床の大幅削減や入院日数の短縮によって、医療依存度の高い療養患者が在宅へと移行する流れが強まっている。訪問診療を手がける医療機関の整備がなかなか進まない中、訪問看護サービスへの期待は一層高まることになるだろう。だが、この日示された実態調査の結果を見る限り、事業自体の存立さえ危ぶまれる状況が見え隠れしている。
  07年に実施された調査によれば、訪問看護ステーションの収益構造のうち7割近くを介護保険からの報酬が占めている。実際、介護保険がスタートした2000年にステーションの数は4,730カ所を数えているが、前年の1.3倍という大幅な増加となっている。
  ところが、2000年から06年までの6年間で比較してみるとその伸びは750カ所、わずか1.16倍の伸びに過ぎない。つまり、介護報酬が頭打ちとなる中、介護保険スタートと同時に経営的には飽和状態になってしまっていることを示している。
  このことを裏付けているのが、訪問看護事業所の収支状況を示したデータである。訪問看護事業所の過半数は職員数が5人未満の小規模・零細型が占めている。これらのうち収支が赤字のステーションの割合は、3〜5人未満の事業所で35.6%、3人未満の零細型では実に51.6%にものぼっている。ちなみに、07年4月から9月までの間で求人募集をした事業所は62.7%であるが、そのうち募集しても採用できなかった事業所は35.1%。求人募集への反応も、「これまでより少ない」という回答も過半数に達している。
●  実態調査から見えてくる悪循環
  これらの調査から見えてくるのは、規模が小さいほどスケールメリットによる経営的な恩恵が受けづらくなる一方、人員を増やそうと思っても人が集まらないという悪循環である。当然、労働市場の規模が小さい地方ほど、この悪循環に陥ってしまう危険が高い。
  事実、介護保険スタートから8年経過するにもかかわらず、訪問看護事業所が未設置という市町村はいまだ半数を占め、特に人口1万人以下という小規模市町村では未設置が70%近いというデータもあがった。
  小規模市町村ほど高齢化率が高いという傾向を考慮すれば、人口あたりの医療依存リスクが高い地域ほど訪問看護サービスを受ける機会が奪われる可能性があるわけだ。仮に、地方の数少ない療養病床がひとたび削減されれば、受け皿を失った医療難民が続出しかねない状況にもあるといえよう。
  これらを踏まえたうえで、事業者団体である全国訪問看護事業協会は、診療報酬・介護報酬における適正な評価、人件費率を跳ね上げている事務処理等の周辺業務についての公的支援などを訴えている。国としても、この分野に一定以上のアクションを起こさなければ、病院・施設から在宅へという大義名分のバックボーンを失いかねない。その意味で、次の介護報酬改定における最重要テーマとなる可能性もある。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.04.07
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