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介護予防サービスの効果分析が本格始動 〜 暫定集計では「効果あり」との結果だが 〜
●  介護予防関連事業スタートから2年
  2006年度の介護保険改正により、新たに介護保険財政を使っての介護予防関連事業がスタートした。あれから2年、様々な議論を呼んだ「介護予防」に果たして効果はあったのか。この3月31日に開催された厚生労働省の「介護予防継続的評価分析等検討会」において、昨年1月より全国83市町村において実施されていた調査の暫定仮集計が提示された。
  そもそもこの介護予防関連事業を盛り込んだ介護保険改正においては、野党や業界内より「予防効果に疑問あり」という反発があがり、改正法の附則に「費用対効果等の検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずるもの」という一文が加わった経緯がある。
  この類の調査において最も難しいのは、どのサンプルとどのサンプルを比較することで効果が測定できるのか、また、どのような数値的変化をもって効果の有無を判断することができるのかという点である。
  前者についていえば、新介護予防施策のスタートを境界として、それ以前の旧制度による予防給付(これは改正後のように介護予防に特化したサービスではなく、要介護者との違いは給付限度額のみである)と、新制度における新予防給付をそれぞれ受けた層を比較し、一定期間サービスを受けた後の要介護度の悪化・改善を比較するというもの。制度改正の前後で、要支援が要支援1・2と分かれたが、改正後の要支援2は改正前の要介護1も数多く紛れ込んでいるため、単純に要支援と要支援1の者を比較対象としている。
  後者については、比較すべき全サンプル数のうち、1年間の追跡調査の結果、どれくらいの割合の高齢者が要支援もしくは要支援1の状態を維持・改善させたか、あるいはどれくらいの割合で悪化したかという数値を比較している(報告書では、この結果をもって介護予防の効果の有無は断定していない)。
  結果からいえば、新介護予防サービスの導入前の維持・改善率が84.8%だったのに対し、導入後の維持・改善率は92.7%となっている。この数字だけを見れば、新介護予防サービスに絶大な効果ありという声も出てこよう。
●  前向きな介護予防に結びつくためには
  確かに、介護保険改正以降、事業所によってはADL等の悪化防止のためのサービス計画に相当な力を入れている。利用者の生活意欲と連動させながら、「どうすれば前向きな介護予防に結びつくか」について、数年前とは比較にならない科学的手法を取り入れている例を見ることも少なくない。
  だが、一方で今回の暫定仮集計に大きな疑問を感じる点もある。その一つが、集計の前提となる要介護認定が適切に実施されているのかどうかということだ。国としては、介護保険改正前後で要介護度を導きだす仕組みは変わっていないというが、現場の感覚としては、日常生活が困難な度合いと比較して「以前より要介護度が軽く出ている」という声が多い(実際に、介護保険に関する電話調査などに携わった中でいくつも耳にした)。
  確かにコンピュータによる一次判定の仕組みは変わっていないだろう。だが、コンピュータにかけるデータを作成する訪問調査において、利用者や家族との面談にじっくり時間をとらず、本当に実態に即した調査結果になっているのか疑問に感じたという声をいくつも聞く。利用者の状況を常日頃から見ているケアマネジャーによる調査受託が減ったということも大きく関係しているようだ。
●  今後の行方
  また、今回の仮集計において、「改正後の介護予防サービスは受けない」という、いわばサービス離脱組がどこまで反映されているのかは不明だ。「介護予防サービスなどいらない」という動機で、その後の更新認定を受けないとなれば、対象者は「介護予防に前向きな利用者」だけに集中しないのか。
  もちろん、今回のデータは暫定版であり、調査側も適宜検討を行う必要があると述べている。この調査は来年3月に最終的な集計がなされることになっている。その頃は、次期介護報酬がおおよそ決まっている段階ではあるが、調査結果の内容によっては大きな議論に結びつく可能性もある。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.04.21
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