>  今週のトピックス >  No.1645
高齢者が働く理由は、「健康」や「生きがい」よりも「生活費のため」
●  高齢者の抱える不安や悩みは、思っている以上に深刻
  内閣府の発表によると、高齢者が収入のある仕事をしている理由として、「生活費をまかなうため」との回答が最も多く、半数以上に上ることが分かった。この発表は、内閣府が行った「高齢者の経済生活に関する意識調査」による。今回の調査は、今後の高齢社会対策の推進に資することを目的として行われ、平成13年度に続き3度目である。55歳以上の男女を対象とし、主として就業・所得分野に関連して、「高齢者の経済生活に関する意識」をテーマに取り上げ、高齢者の収入・支出、就労、資産等、高齢期において安定した生活を送るために重要になると思われる諸項目について調査が行われた。現在、我が国では、高齢社会対策が急務であり、医療保険制度の改革や雇用に関する法改正など様々な取り組みがなされているところである。平均寿命が延び、世界一の長寿国と言われる中、高齢者の多くは、老後の生活は第2の人生の始まりとして充実した生活を送りたいと願っている。これは、私生活だけに限ったことではなく仕事についても言えることであり、今回の調査でも60歳以上の48.5%が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答している。高齢者の抱える不安や悩みなどを浮き彫りにしたこの調査は、国民の一人一人が長生きして良かったと実感できる社会を築き上げていくために大いに参考となる資料であろう。
●  高齢者の生活では、健康と医療に関する問題が大きなウエイトを占める
  調査結果をみてみると、「現在の暮らしに経済的に心配がある」と回答した者は、4割弱で前回調査から約1割増加している。また、「現在の貯蓄額は、老後の備えとして足りないと思う」者は、64.7%と6割を超える結果となった。こうした生活の不安から、「健康によいから」(37.8%)、「生きがいが得られるから」(34.6%)というよりも、「生活費をまかなうため」(53.9%)に収入のある仕事をしている人が多くなっているのではないだろうか。
  次に、過去1年において支出における大きな割合を占めるものを見ていると、「健康維持や医療介護のための支出」(44.2%)が最も高く、日常で負担を感じている支出についての質問では、「医療費」が5割弱の46.0%、次いで「生命保険や損害保険などの保険料」(25.5%)と、医療と健康に関するものが実に7割を占めている。やはり、高齢者の生活を考えたときに健康と医療に関する問題は大きなウエイトを占めることがわかる。また、税金や社会保険料についての負担感もかなり大きくなっており、約7割の高齢者が税金と社会保険料の負担感を重いと感じていることがわかった。
●  高齢社会にふさわしい社会システムの構築
  老後の生活を豊かなものとするには、経済的に満たされていることが必要である。これを担うのが社会保障給付である公的年金であり、今回の調査でも夫婦の収入額の中で、公的年金の占める割合が「10割」の者が5割に達している。しかしながら、年金だけで生活をまかなえると回答した者は約3割にとどまっており、現実は年金以外の収入がなければ満足な生活を送ることが難しくなっているようである。こうした現状を踏まえ、国と企業には、高齢者が働くことができる環境を作っていくことが一層求められているのではないだろうか。われわれの誰もが、遅かれ早かれ高齢者となる。高齢者となったときに不安や心配を無くすためにも、収入、健康、生活環境などについて今からできることを考え、取り組んでいくべきであろう。
出所:内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査結果」
(庄司 英尚 株式会社アイウェーブ代表取締役、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2008.05.26
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