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財務省が「介護給付見直し試算」を提出〜介護現場を揺るがす想定に議論は必至〜
●  3つのケースによる試算
  5月中旬、地方都市の介護現場をいくつか訪ねる機会があった。そこで少なからず話題になったのが、一部新聞紙上でも報道された財政制度等審議会の財政構造改革部会(5月13日)に提出された、財務省による「介護・医療制度の現状と課題」についてである。一部新聞紙上でも報道されたので、ご存知の人も多いと思う。
  この提出資料の中には、介護保険給付費の現状を示す様々なデータが含まれている。問題となったのは、その中の「軽度者に対する介護給付の見直しによる影響額試算」だ(http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseib200513.htmのアドレス内にある、配布資料『介護制度の現状と課題』よりダウンロードできる)。
  同試算は、3つのケースを想定して、それぞれに国庫負担や保険料の圧縮額を導き出している。3つのケースとは、(1)要介護度が軽度の者を介護保険制度の対象外とした場合、(2)要介護度が軽度の者であって(訪問介護における)生活援助(家事援助を中心としたサービス)のみの場合の給付を介護保険制度の対象外とした場合、(3)要介護度が軽度の者の自己負担割合を1割から2割にした場合、というものである。一目して、厚労省の社会保障審議会などにはなかなか提出しにくいほど過激な想定であり、それゆえに介護事業者等に与えるインパクトは極めて大きいといえる。
  試算によれば、給付費全体の圧縮額は、(1)のケースで2兆900億円、(2)のケースで1,100億円、(3)のケースで2,300億円となる。ちなみに(3)のケースにおける利用者負担の割合を増やす案は、内閣府の経済財政諮問会議でもたびたび話題に出されており、財務省としては、すでに道筋がついているという認識から最も現実的な案と考えているふしがある。
●  国民・介護事業者の懸念は
  だが、折りしも世間は後期高齢者医療制度における、高齢者の負担増で大きく揺れている。政府・与党としては、この時期に、(3)のケースのような「払うお金が増える」という試算が出されること自体歓迎していない。仮に介護保険の給付抑制策が浮上しするなら、(2)のケースからさらに踏み込んで、「軽度者における生活援助そのものを給付から外してしまおう」という案が出てくる可能性が高い。
  冒頭で訪問した先の介護事業者が懸念していたのは、まさにこの点である。訪問介護における生活援助(家事援助)については、同居家族がいる場合の給付カットが問題になり、厚労省から市町村に対して「一律カットはしないように」という通達が出た経緯がある。一方で、事業者側の間では、「通達を出した厚労省も、次期介護報酬改定では生活援助カットを大きく打ち出すのではないか」という疑心暗鬼はますます大きくなっている。
  実は、業界団体の間で最近囁かれている話題に、いったんは頓挫した「民間介護保険による現物給付を認める」という制度改定の復活があがっている。つまり、生活援助をカットする一方で、そのニーズについては民間の介護保険でまかない、事業者に支払われる費用は民間の保険会社がまかなうというものだ。
  もちろん、これが政策の舞台に上がった途端、社会保険としての介護保険制度そのものの存在意義が問われることになる。利用者としても結果的に二重の保険料を支払うことになるわけで、再び負担増という議論が巻き起こってくることも必至だろう。
  本来、こうした議論の本舞台となる厚労省の介護給付分科会はまだ開かれる様相を見せていない。同会が再開されたとき、すでにレールは敷かれていたなどという国民不在の流れだけは避けることを望みたい。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.06.09
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