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要介護認定の仕組みに大幅変動!?〜突如、カットされた23の調査項目〜
●  要介護認定の23項目を削除
  6月2日、衆議院第一議員会館第2会議室において、介護保険制度の改善を求める市民団体が官僚や政治家を招いて緊急の集会を催した。この時期、高齢者福祉にまつわる国会集会といえば後期高齢者医療制度がテーマとなりがちだが、ここで話し合われたのは、マスコミでもほとんど取り上げられていないテーマだ。それは、介護保険制度活用の入口ともいえる要介護認定についてである。
  現在、厚生労働省内では、2007年2月より定期的に「要介護認定調査検討会」なるものが開催されている。その第4回が5月2日に開催されたのだが、そこでは要介護認定の仕組みを見直すためのモデル事業として、従来の要介護認定の82調査項目から23項目を削除した質問項目が提示されたのである。
  その23項目は文末に示した通りであるが、一読しただけでも、「これらの項目を外して、果たして適正な要介護認定が実施できるのか」という疑問が浮かぶ項目ばかりである。
  拘縮や褥そうなどは、それができないようにすること、あるいは改善させることが、介護サービスの大きな目的の一つになっていると言ってもいい。また、暴言暴行や火の不始末、異食行動などは認知症の周辺症状において、家族介護を難しくさせている要因の主たるものであり、認定調査でこれらの項目が考慮されないとなれば、認知症ケアの存在意義そのものが失われかねないとも言える。
●  23項目削除の意図は?
  この日の国会集会では、厚生労働省の担当者を呼び、23項目カットの真意とそれによって要介護認定のあり方がどう変わるか(重い認知症があっても要介護度が軽く出てしまうのではないか、など)について、参加者から問いただす質問が投げかけられた。これに対し、担当者は「これはあくまでモデル事業である」ことや「質問項目上、内容的に重複すると思われるものをカットしたので、要介護認定の結果を軽くするという意図はない」という弁明に追われた。
  だが、社会保障費の大幅カットが社会問題化し、後期高齢者医療の次は介護保険であるという見方が強まっている時勢である。参加者にとって、「介護保険の適用者を大幅にカットすることが目的では」という疑念が払拭されず仕舞いなのも当然だろう。
  ちなみに、筆者がこの削除対象の23項目を見ていてふと思ったことは、1〜5については訪問看護など医療保険サービスの部分でも重視されるものであること、6〜23については、調査票の特記事項にその詳細が記されるケースが多いということだ。
  これは何を意味するかというと、前者は医療保険サービスから介護保険サービスに流れてくる要素を絞り込むということであり、後者は、主に特記事項をもとに話し合われる要介護認定審査会の自由度を縛ることで、コンピュータによる一次判定の絶対度を高めるということにつながるといえる。つまり、医療と介護の狭間や審査員の判断を通じての判定といったファジーな部分を極力排除していくという思惑が浮かび上がってくるのである。
  そもそも介護とは何かという議論においては、当事者の人生観や生活観、あるいは介護する家族の精神的・肉体的疲労など、相対的な条件が積み重なる中でニーズが生まれているといえる。要するに複合的な要因の結果として「介護サービス」は生まれており、これを詳細に分析しながら客観的な要素を取り上げていくのが国の制度設計であるはずだ。
  この丹念な作業を省略すれば、途端に「介護」の概念はファジーなものになる。そのファジーな部分を切り捨ててしまおうというのが、今回の23項目削除につながっているとするなら、あまりにずさんな仕掛けといえよう。後期高齢者医療制度の次に、この問題が国民的議論の大きな火種になる可能性がある。

第2次モデル事業で削除予定の23項目
1.拘縮(肘関節)
2.拘縮(足関節)
3.褥そう
4.皮膚疾患
5.飲水
6.作話
7.幻視幻聴
8.暴言暴行
9.大声を出す
10.落ち着きなし
11.外出して戻れない
12.一人で出たがる
13.収集癖
14.火の不始末
15.物や衣類を壊す
16不潔行為
17.異食行動
18.環境等の変化
19.電話の利用
20.指示への反応
21.感情が不安定
22.同じ話をする
23.日中の生活
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.06.16
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