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2007年度査察は49億円増の353億円の脱税把握〜査察白書〜
●  処理した7割強の158件を検察庁に告発
  いわゆるマルサと呼ばれる査察は、脱税でも特に大口・悪質なものが強制調査され検察当局に告発されて刑事罰の対象となる。国税庁が6月17日に公表した今年3月までの1年間の2007年度査察白書によると、査察で摘発した脱税総額は前年度を49億円上回る353億円だった。検察庁に告発した件数は前年度より8件少ない158件だったが、1件あたり平均の脱税額は、小粒化は続いているものの、3年連続で増加している。
  2007年度1年間に全国の国税局が査察に着手した件数は220件(前年度231件)、継続事案を含む218件(同221件)を処理(検察庁への告発の可否を最終的に判断)し、うち72.5%(同75.1%)にあたる158件を検察庁に告発した。告発分1件あたりの脱税額は前年度より2,800万円多い1億9,500万円。告発事件のうち、脱税額が3億円以上のものは同3件増の20件、5億円以上では同1件減の7件だった。
●  目立つ消費税・FX取引事案
  2007年度の脱税総額353億円は、前年度よりは増加したが、近年は大口事案が減少しており、ピークの1988年度(714億円)に比べ5割近くにまで減少している。告発分を税目別にみると、所得税は2件減の57件で、件数では法人税(16件減の62件)より少ないが、脱税総額では約94億円と法人税(約81億円)を上回った。そのほか、消費税は7件増の30件となり、脱税額も倍増の約44億円に達している。
  告発件数の多かった業種・取引(5件以上)は、「商品・株式取引」が21件、「鉱物、金属材料卸」が15件、「人材派遣業」が14件、「不動産業」が10件など。「商品・株式取引」のうち19件が外国為替証拠金取引(FX取引)であり、「鉱物、金属材料卸」のうち11件が消費税を脱税した宝石卸売関連事案、「人材派遣業」でも13件が消費税を脱税したものだ。消費税事案は30件と過去最高の告発件数となっている。
  脱税の手口としては、FX取引による利益の除外や、宝石卸売業を中心に、架空の輸出免税売上とそれに見合う架空の課税仕入の計上するケースや、人材派遣業を中心に、本来課税仕入に該当しない人件費を課税仕入となる外注費に科目を仮装することなどによる消費税の脱税が目立った。
●  22人に実刑判決、平均の懲役月数は16.1ヵ月
  査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。刑罰とは懲役や罰金だが、実をいえば、以前は実刑判決はなかった。
  つまり、執行猶予と罰金刑で済んでいたのだが、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されている。2007年度中に一審判決が言い渡された189件のすべてに有罪判決が出され、うち22人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡された。
  平均の懲役月数は16.1ヵ月、罰金額は約3,100万円だ。査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうるわけだ。ちなみに、刑罰は5年以下の懲役または500万円(脱税額が500万円を超える場合は脱税相当額)以下の罰金となるか、あるいは懲役と罰金の併科となる。
  ちなみに、2007年度は、上記のように、すでに着手した査察事案について、同年度中に検察庁への告発の可否を最終的に判断した件数は218件で、このうち検察庁に告発した件数は72.5%(告発率)にあたる158件だった。最近5年間の告発率はすべて70%台で推移している。つまり、査察の対象になると、7割以上が実刑判決を含む刑事罰の対象となるということだ。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2008.07.07
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