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2007年度の介護事業経営概況が公表される 〜介護市場の激変を予測させる結果が〜
●  2007年における介護施設および事業所の経営状況の調査結果
  現在、厚生労働省内では、09年度の介護報酬改定に向けた社会保障審議会・介護給付分科会が開催されている。今年6月18日に開催された第51回分科会では、次期報酬改定に向けての基礎的な資料がいくつか公開されたが、中でも注目されたのが07年における「介護事業経営概況」の調査結果である。
  これは、全国4800ヵ所の介護施設および事業所を対象とし(抽出率は約4%)、07年9月の1ヵ月における事業の実施状況および収入・支出の状況を調査したものだ。08年の介護報酬改定により、介護事業経営全体がひっ迫しているとされる中、その実態を数字で示した貴重なデータといえるだろう。
  施設・事業所の経営状況を測定するうえで、当データが用いているのが「収支差率」という数字である。これは、その月の収入から支出を差し引いた差額の収入に占める割合を示したもので、この数値が低いほど経営状況が厳しいということになる。当データでは、これらの数字を04年時のものと比較している。
●  調査結果による介護施設および事業所の収入と人件費の実態
  まず介護施設側の状況を見てみると、例えば、特別養護老人ホームの場合、利用者一人あたりの収入は04年時と比べて+3%の伸びを記録、一方で支出は+10%の伸びで、全体として収支差率は04年の10.2%から4.4%へと半分以下に激減している。
  これは、入居者の重度化によって介護報酬が上がったこと等が関係していると思われるが、同時に個室ユニットへの改築や設備の老朽化・各種原料高にともなうコスト増などが影響して支出も大きく引き上げられていることが見て取れる。
  意外なのは、離職率が激しいといわれる職員の1人あたり給与がやはり+2%の伸びとなっていることだ。これは老人保健施設における給与が+8%という急激な伸びを示していることを鑑みると、介護職員ではなく看護職やその他の専門職の給与の伸びが関係していると思われる。ちなみに、福祉人材センターのデータを見ると、職種別の有効求人倍率は看護職が飛びぬけており、人材確保のために医療機関と同等かそれ以上の給与を保障する必要が高まっているとみられる。
  一方で、職員の常勤率は介護施設全般において軒並み低下しており、非常勤職員や派遣職員などを活用しつつ、人員配置のやりくりをしている状況も浮かび上がる。
  この施設側の経営状況と極めて異なった様相を見せているのが、訪問介護である。同事業においては、利用者1人あたりの収入は何と−9%で、職員一人あたりの給与額も−4%となっている。結果として収支差率は04年の1.6%から3.3%へと増大しているのだが、ただでさえ経営的にギリギリといわれる訪問介護において、この収支差率の増加はほとんど意味をもたない。むしろ、収入も人件費も地すべり的に低下して、企業としての体をなさない状況にあることが深刻だ。
●  訪問介護市場が縮小することによる影響
  06年の制度改正後、訪問介護事業者の撤退が目だっているといわれる。確かに生活援助の制限や、介護予防サービスの導入による報酬の激減(中小規模事業所においては収入が半減したところもある)が、訪問介護サービスに大打撃をもたらしているのは確かだ。
  訪問介護市場が縮小することで、最も影響を受けるのは、在宅における比較的軽度の要介護者である。このまま何のてこ入れもなく、訪問介護市場が限りなくゼロに近づくとすれば、それは要介護度の低い人を介護保険の対象から外すという流れに結びつきかねない。今回の調査結果は、もしかしたら行政側の思惑通りなのではないか。そんな妄想さえ、つい頭をもたげてしまう。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.07.14
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