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インドネシアから介護・看護人材が来日
〜現地での教育指針が未策定という不思議〜
●  インドネシアより初めての看護・医療分野の人材の受け入れ
  日本とインドネシアの間で締結された経済連携協定(EPA)により、わが国で初めて看護・医療分野の人材を「労働者」として受け入れることとなり、その第一陣が8月上旬にも来日する。当初の予定では、最初の2年間で看護師400人、介護士600人とされていたが、インドネシア側のあっせん機関であるナショナルボードへの応募は初年度予定の6割となる約300人、さらに受入れ施設等とのマッチングにより226人にまで絞り込まれた。
  初年度とはいえ、実際の受入れ人数がこれだけ少なくなった要因の一つに、介護士側の就労要件があげられる。この就労要件は2つあり、1つは「インドネシア国内の看護学校の修了証書V取得者または大学の看護学部卒業者」であること。もう1つは、「インドネシア国内の大学または高等教育機関の修了証書V以上を取得し、かつ介護の研修を修了し介護士としてインドネシア政府から認定された者」であるというものだ。
  問題なのは、後者に記されている「介護の研修」である。この研修の指針については、日本とインドネシア両国で構成する「自然人の移動小委員会」において採択されるのだが、初年度においては同指針による研修は実施されていない(ちなみに、厚生労働省に問い合わせたところ、同委員会は定期的に開催されてはいるが、まだ指針の採択には至っていないという)。よって、後者の就労要件は適用されず、前者の要件にある主に看護学校等のカリキュラム修了者のみが対象となる。
  つまり、介護士としての受入れに関しては、看護系の教育を受けた人材に限られることとなり、その分入国人数が少なくなることが想定されるわけだ。事実、人数が少なくなる可能性については、受入れ実務を担う国際厚生事業団のパンフレットにも明記されている。
  介護現場の視点から素朴に感じることは、「どのような人材を教育するかというビジョンもなしに、まず“受入れありき”という手順を踏むことは順序が逆ではないのか」ということだ。この点については、先に受入れが始まるはずであったフィリピンとのEPAにおいても、かねてから同様に抱いていた疑問である。(なお、フィリピンからの看護師・介護士受入れに関しては、フィリピン側の国会の混乱等により未だに協定批准がなされておらず、宙に浮いたままとなっている)
●  日本側の消極的な姿勢
  昨年、フィリピンからの人材受け入れをにらんで、筆者自身、現地視察を行なった。そこで現地の介護士養成学校の代表から強く訴えられたのは、「日本側から『こういう人材を育成してくれ』という具体的な指針が何も提示されないので、困惑している。仕方なく、(やはり介護士受入れ国である)カナダのカリキュラムを参考にしている」というものだった。
  この流れから垣間見えてしまうのは、EPAの一環として「仕方なく受入れている」とでも言いたげな、日本側の消極的な姿勢である。フィリピン視察の際、同行した介護施設の代表から「介護現場の人手不足は深刻であり、すぐにでも現地から連れて帰りたいほどの気持ちがある」という言葉を聞いたが、この現場の熱意と国側の冷めた態度との温度差はいまだに埋まらないままだ。
  客観的に見て、こうした中途半端な姿勢で人材受け入れに踏み切った場合、恐らくは現場レベルで様々な問題が浮上することになるのは必然だろう。少なくとも、現地での教育指針などはすぐにでも策定すべきである。いまこそ日本側の姿勢が問われている。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.07.28
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