>  今週のトピックス >  No.1687
労働者派遣の規制強化
●  労働者派遣法ははじめて規制強化へ
  厚生労働省は、格差社会の象徴とみなす見方もある派遣労働について、見直しを検討している。このたび、同省の研究会で報告書がまとまった。今後、労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、労使を交えた更なる検討を行い、この秋の臨時国会において労働者派遣法の改正を目指す。同法は1985年の成立以来、一貫して規制緩和の方向で緩和されてきたが、はじめて規制強化に向けて舵がきられる。
 規制強化の主なポイントは、(1)日雇い派遣と30日以内の派遣の原則禁止、(2)グループ内企業に派遣する労働者の人数の割合を8割以下に規制、(3)派遣料金の中の派遣会社の収入の公開を義務化、(4)派遣先の責任で起こした労災の費用を派遣先企業からも徴収、などである。
●  30日以内の派遣は原則禁止
  報告書は「日雇い」の定義として、1日単位の雇用に限らず30日以内の雇用契約を対象にするよう踏み込んだ。「登録型派遣」は今回の見直しの対象とはなっていないが、30日以内の派遣は原則禁止となるため、「登録型派遣」であっても、派遣期間が1カ月以内のものは禁止となる方向である。ただし、アナウンサーなどの一部の専門業務は例外とされる。
 一方で「常用型派遣」は派遣業種の中では、もっとも安定したものとして位置づけられているが、更なる安定雇用が求められている。
 日雇い派遣が禁止されれば、流通業や小売業など、年間の繁忙の繁閑が大きい業種においては、その人員確保が一層困難になる。
●  派遣子会社も規制対象に
  また報告書では、大企業などが子会社で派遣会社をつくり、グループ企業に対してだけ派遣することも直接雇用の回避につながるとの観点から、グループ企業への派遣を、その会社が抱える派遣労働者の8割以下にすることなどを求めている。 厚労省が大企業のグループに属する259の人材派遣事業所について2008年2月に調べたところ、人員の8割以上をグループ内に派遣している事業所は68.3%に達していたという。
 グッドウィル社においては、不明朗な給与天引きが問題視されていたが、報告書では、派遣労働者の賃金だけでなく、派遣料金についても情報公開することを義務付ける方向である。派遣料金と派遣賃金の差額は、いわゆるマージンとして搾取とみる見方もあるが、派遣会社の取り分には、教育訓練費や福利厚生費も含まれていることから、それを情報公開することで、良質な派遣会社の選別につながる。
●  派遣先も労働災害の責任を担う
  労働災害は、派遣元ではなく派遣先で起きるものであるから、派遣先に労働災害を防止する責任を負わせる法改正が求められている。 今回の労働者派遣の規制強化は、グッドウィル社の不祥事や格差問題の解消が発端である。しかし日雇い派遣をなくして、正社員化を促しても、今度は低賃金の正社員が増加するだけなのは明らかである。かといって、日本の国際競争力の確保を大義名分にして現状の労働者派遣を放置しておくわけにもいかない。人材のミスマッチが今の状況を生んでおり、社会全体での教育体制や人材育成を行うことが根本的な解決といえる。
出所:厚生労働省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2008.08.11
前のページにもどる
ページトップへ