>  今週のトピックス >  No.1689
「介護労働者の確保・定着等に関する研究会」が中間とりまとめを発表 〜もう一歩の踏み込みが欲しい論点とは〜
●  単に雇用管理のあり方等の一般論でくくるのではなく、もう少し踏み込みが欲しかった
  7月29日、厚生労働省の職業安定局より、「介護労働者の確保・定着等に関する研究会」の中間とりまとめが発表された。
 同研究会は、昨今大きな社会問題となりつつある介護労働者の不足を解消することを課題として、今年4月より開催されているものである。介護労働者の待遇の原資となる介護報酬の改定が来年度に迫る中、果たして有効な提言が出されるかどうかが注目されていた。
 一読して、多角的に課題が分析されていると感じる半面、具体的に問題はどこにあるのかという焦点がややぼやけている印象がある。介護報酬の問題にしても、「介護報酬が切り下げられる前も介護労働者の賃金は現在とほとんど変化はなく」といった表現で、「介護報酬犯人説」をやんわりと否定する部分も見える。
 それだけ問題の根が複雑であることの証ともいえそうだが、例えば、介護報酬の切り下げで経営的な余裕がなくなった事業所・施設が、賃金以外の面で介護労働者を圧迫している部分(それとなくサービス残業を強いたり、事業所側が諸経費を費やすことによる時間外研修を減らすなど)があるのではという部分については、単に雇用管理のあり方等の一般論でくくるのではなく、もう少し踏み込みが欲しかったように思われる。
 結局、具体的な提案でめぼしいものとなると、先に厚労省より発表された「介護の日」(11月11日とすることを決定)の制定くらいであり、切迫した現状と比較した場合に、現場に向けてどこまでアピールする力があるのかは懸念せざるをえない。
●  介護職は、社会不安を解消するセーフティネットの役割を果たす
  ところで、筆者は先だって、ある業界団体に招かれて「ホームヘルパーの人手不足問題の解消」をテーマとした講演を依頼された。ストレートに「これが解決策である」と提示することにはやはり苦心したが、自分なりに一つのヒントを提示してみた。
 先の介護労働安定センターのデータによれば、介護業界(特に訪問介護の分野)における離職動機について、「社会的地位の低さ」を上げる者が多かった点が注目される。これは、コムスン事件のような問題が契機となっている部分もあるが、それ以上に「介護職の役割」が非常に狭く解釈されているのでないかという点を指摘した。
 つまり、介護の専門性自体が一般社会の中で確立していないため、いまだに「お手伝いさん」や「看護助手」の延長といったイメージが強いという点である。業界からは常々、自立支援や「その人らしさ」の支援といった言葉が発せられているが、どうもピンと来ない人が多いのではないだろうか。
 例えば、在宅で生活している高齢者の場合、悪質な訪問販売や押し込み強盗、「振り込め詐欺」の電話、あるいは親族による身体的・経済的虐待など、家の中にいても安心して暮らすことができないという体感不安が高まっている。もし、ここにホームヘルパーがかかわって不安解消に一役買うことができるなら、一般社会に対しても非常に大きなインパクトを与え、ヘルパーの社会的地位を一気に高めるカギとなるのではないか──こうした旨を講演で訴えた次第である。
 確かにこうした不安解消は、介護保険などの制度外に位置づけられた要素ではある。だが、地域福祉のあり方を厚労省が積極的に模索している現在、介護職の役割をそこにどう位置づけるかを提案していくことは、決して難しいことではないはずだ。
 介護職は、社会不安を解消するセーフティネットの役割を果たす──この視点を推し進めていくことで、社会的地位を向上させる新たな糸口が見つかるかもしれない。こうした視点からの議論を待ちたいと思う。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.08.11
前のページにもどる
ページトップへ