>  今週のトピックス >  No.1705
福田首相が「置き土産」とした政策の意味
●  政策は、入口の段階
   今回のトピックスの構成を考えていた矢先、福田首相の辞任というニュースが飛び込んできた。辞任会見では、「国民目線での改革に着手した」という表現を用いて、道路特定財源の一般財源化、消費者庁設置法案の取りまとめ、国民会議を通じての社会保障制度の抜本見直しといった実績を強調している。
 だが、いずれも政策的に完結させることができたかといえば、首相自らが「最終決着はしていないが、方向性は打ち出せたと思っている」と述べているように、まだ入口に差し掛かった段階に過ぎない。そのため、中途で投げ出したという見方が主流になっているが、個人的には、むしろ「当初の予定通り」だったのではないかと考えている。
●  「安心と希望の医療確保ビジョン」を例に
  この件を検証するうえで、「安心と希望の医療確保ビジョン」を例に取りあげてみよう。この検討会自体は、社会保障国民会議と同様に福田首相の肝いりで今年1月からスタートしたものだが、実際は、小泉政権時の「新医師確保総合対策」、安倍政権時の「緊急医師確保対策」という流れを引き継いでいる。
 ただし、小泉・安倍政権時においては、年間2,200億円の社会保障費抑制に象徴される歳出削減が最優先課題に掲げられており、大規模な財政出動を前提としない対策にとどまっていた。そして、当時は政策的な優先順位において、医師確保という政策効果の限界は、ある程度折り込まれていたといえる。
 ところが、社会保障における政策効果を財政健全化という大義名分の影に隠すという手法は、07年夏の参院選挙における与党大敗により実質破綻することになる。つまり、「医師確保」などを掲げるのなら、その効果を日の当たる場所に引き出すべきという有権者の意思が、選挙結果に現れたものといえる。
 では、財政健全化と「医師確保」等の政策効果は両立できるものなのか。一般的には、この困難な操縦を、その調整能力の高さによって担わされたのが福田首相という位置づけであろう。だが、実際は、「実質的な効果を挙げるにはどれくらいの政策規模が必要なのか」をまず洗いざらい明らかにする──この課題に向け、いわば「不良債権企業の会計士」役を担わされたのが福田首相ではなかったか。
 ちなみに、首相辞任の直前、8月27日に開かれた「医療確保ビジョン具体化検討会」の中間とりまとめにおいて、来年度の医学部定員を過去最大の8,360人まで増やし、10年後には現行の約7,800人から1.5倍増の1万2,000人程度まで増やすという目標が掲げられた。この取りまとめに合わせ、委員からは「1.5倍の場合、最大2,400億円程度の財政出動が必要になる」という試算も出されている。
 先に与党が方針を固めた定額減税は時限的なものであるが、こちらは10年単位という比較的中長期にわたる政策目標である。つまり、これからの日本の医療を見据えた政策順位を決定するものであると言っていい。
 さらに、政府が掲げた「5つの安心プラン」では、産科医やへき地医療に携わるなど、人手不足が著しい分野の医師確保について財政支援する方針も打ち出した。こちらは、1、2年というスパンをにらんだ緊急財政出動であるが、それでも来年度予算に絡んだ財源確保の議論は当然絡んでくるだろう。
●  これからの政策の進め方は
  見積もりがどこまで正確であるかは置いておくにしても、「これだけ必要なのだ」というラインを具体的に示したという意味では、福田首相は一定の功績を果たしたといえる。
 では、本当にこの政策を進めるのか、進めるとしたら財源確保をどのようにするべきなのか──これらの課題は次期首相に掲げてもらい、それをもって総選挙で国民の信を問う。これが当初からの福田内閣におけるシナリオだったのではないだろうか。
 とするならば、次期首相が誰になるにせよ、臨時国会で補正予算を決定し、その財源確保手段を明らかにしたうえで、すぐに解散総選挙を行なうという流れがシナリオ的には正しいことになる。この手順を一つでも飛ばす(つまり、国会の冒頭解散などを行なう)ということになれば、恐らくはその段階で国民からの手痛い仕打ちを受けることになるだろう。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.09.08
前のページにもどる
ページトップへ