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2健保組合の解散と政管健保への移行〜国は特殊事例として火消しに躍起だが〜
●  2健保組合を例に
  西濃運輸健保組合と京樽健保組合が相次いで解散し、政府管掌健保(2008年10月より協会けんぽに再編成)に移行したことが、企業健保の財政悪化を示す事例として大きく報道されている。そんな中、9月12日に開催された、厚労省の社会保障審議会医療保険部会において提出された資料が目をひいた。
 この資料は、「健康保険組合および政管健保の現状について」と題した省提出の資料であり、その2ページ目に「西濃運輸健保組合・京樽健保組合の解散について」という分析が記されている。概略は以下のような内容だ。
(1)両組合とも政管健保と保険料率がほとんど同じであるため、健保組合が維持するメリットが薄れていた(ちなみに平成19年度の保険料率は、政管健保の82%に対し、京樽82%、西濃運輸81%)。
(2)平成20年4月からの前期高齢者に対する財政調整への拠出拡大について、両健保は前期高齢者の加入割合が低いため、一気に負担が増えることになった(ちなみに健保組合全体の前期高齢者の平均加入率は2.44%に対し、西濃運輸1.1%、京樽1.0%)。
(3)西濃運輸健保については、同グループ内で健保組合に加入している会社(31社)と、政管健保に加入している会社(27社)があるため、福利厚生上不公平な状態が続いていた。
(4)京樽健保については、平成14年までの会社更生手続きによる事業再構築にともない、被保険者数が減少していた。
 要するに、この2社の健保については特殊な状況におかれた末の政管健保への移行であり、あくまで例外的な事例であることが強調されている。マスコミが一斉に「企業健保の危機」を発信したことに対して、火消しに躍起になっている状況が伝わってくる。
 だが、厚労省が具体的な健保名まであげて火消し用の資料を提示したことは、皮肉にも、政管健保財政の悪化をにおわせ、10月からスタートする協会けんぽを何とかスムーズにスタートさせたいという焦りを浮き彫りにすることになった。少なくとも、企業健保側のこれ以上の流入は何としても避けたいという強い意図を感じざるをえない。
●  政管健保財政の行方は
  いくら先の2健保の特殊性を強調しようとも、今年4月からの前期高齢者に対する財政調整等にかかる拠出は、すべての企業健保にとって大きなプレッシャーになっていることは間違いない。同資料においても、その分の拠出は全体で1,800億円に達するというデータが示されている。さらに、今年度に限ってという条件付きではあるが、「政管健保国庫補助額特例措置法案」の施行によって、健保組合に対して750億円の特例支援金を求めることが決まっている。
 こうした重しが中長期にわたって健保組合の体力を奪っていることは間違いない。仮に今回の2健保に続く動きが出た場合、なだれをうって健保解散が続出する恐れもあるだろう。そうなった場合、政管健保財政が一気に悪化する可能性もある。近々行われると予測されている解散総選挙においても、事故米や消えた年金などに続く大きな争点になってくることも考えられる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.09.29
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