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金融機関から見た民間住宅ローンの現状
●  ローンの新規貸出は減少傾向
  地価の下落傾向が見え始めたなか、住宅取得が伸び悩んでいる。このたび、(独)住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が、金融機関を対象に住宅ローンの貸出動向を調査し、その結果を公表した。調査時点は2008年7月である。
 まず新規貸出件数については、対前年度比で「増加した」と回答した金融機関は28.0%なのに対して、「減少した」は40.1%と多い。この回答は金融機関業態別に違いが大きく、都銀・信託での「減少した」との回答は75.0%、労金で75.0%なのに対して、第2地銀は29.3%、地銀が32.2%と少なく、業態ごとに取り組みに差があることがわかる。
 次に新規の住宅ローンにおける金利の固定・変動の種別は、全期間固定金利や10年超の固定金利を選択する利用者はわずか11.9%に過ぎず、大部分は変動金利や10年以下の固定金利を選択している。
●  返済期間は短縮傾向
  変動金利が22.3%、5年以下の固定金利が27.3%、10年固定が37.1%と10年固定がもっとも多い。昨年の調査では、変動が14.0%、5年以下の固定が44.6%、10年固定が25.6%となっていた。ここ1年間の間で5年以下の固定が減少し、変動か10年固定のいずれかへのシフトが起こっている。
 住宅ローンの返済期間は平均25.3年で、前年度の26.1年より短縮している。内訳は「20年以下」が17.2%(前年度は15.5%)、「20年超25年以下」が33.6%(同28.6%)、「25年超30年以下」が40.2%(同43.3%)とより短期のローンにシフトしている。
●  家計との取引強化
  金融機関が住宅ローンを販売している背景について回答を求めると、「貸出残高の増強」が65.6%(前年度は45.3%)、「家計との取引強化」が54.7%(同40.6%)と続く。その要因としては「企業貸出の伸び悩み」の代替として貸出先として強化していることと個人向けは「貸し倒れが少ない」ということが挙げられている。
 金融機関が住宅ローンの顧客として重視する層は、所得が比較的高い中所得層(年収800万円程度)であり、年齢では30代または40代である。住宅の種類では、新築戸建てとなっている。新築分譲マンションや新築分譲戸建てでは、販売業者と金融機関が提携しており、新たにローンの貸し手として食い込めないからであろうか。
 こうして競争が激化する住宅ローン市場であるが、他の金融機関との差別化の手段としては、9割の金融機関が「金利優遇」を適用している。
●  固定期間選択型ローンで競合激化
  金利水準を決定する際の指標としては、「調達コスト」という回答は変動金利で57.4%(前年度は56.3%)、固定期間選択型では55.8%(同56.7%)であるが、もっとも多い回答は「競合金融機関の金利」であり、変動金利で68.4%(同73.4%)、固定期間選択型で84.8%(同75.1%)となっており、固定期間選択型で金融機関間の競合が激しいことをうかがわせる。
 こうした金利競争は利鞘の縮小、他の金融機関への借換といったリスクを内在している。実際に「利鞘縮小」リスクを懸念する回答は83.4%、「他の金融機関への借換」リスクは61.6%である。ちなみに住宅ローンが抱えるリスクとして回答があったものは、その他に「景気低迷による延滞増加」が73.5%(前年度は52.7%であり大幅に増加)、「金利上昇による延滞増加」が63.4%(同69.9%)となっている。
 このため、金融機関として今後推進したい戦略としては、「中期固定金利ローン」が51.6%(同27.6%)、「全期間固定や長期固定ローン」が14.9%(同41.7%)、「短期固定ローン」が12.8%(同14.1%)、「変動金利ローン」が10.5%(同7.5%)と、固定金利志向から中期固定金利へと明確に変化している。
出所:(独)住宅金融支援機構「平成20年度民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2008.09.29
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