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平成19年「国民生活基礎調査」の衝撃 〜70歳以上の家族介護者が3割という時代〜
●  主な介護者の状況
   9月9日、厚生労働省より平成19年の国民生活基礎調査が発表された。この調査は保健、医療、福祉などの側面から国民生活の基礎的な状況について、昭和61年より3年ごとに大規模な調査を行なっているものである。
 今回の調査で特に目を引いたのが、「介護の状況」の項目に掲載された「主な介護者の状況」である。ここでいう「主な介護者」とは、同居・別居を問わず、要介護者の介護を中心的に担っている家族・親族等(介護サービス事業者も含む)を指す。この調査結果を見る中で浮かび上がってきたのは、在宅における介護の危機的ともいえる状況である。
 まず、主な介護者全体のうち、要介護者と同居している家族は60%、特に「要介護者本人の配偶者」は25%に及ぶ。これは、「要介護者の子」(17.9%)、「要介護者の子の配偶者」(14.3%)を上回っている。 また、主な介護者を性別で見ると、女性が71.9%と圧倒的な比率を占める。さらに、年齢別で見ると、介護者年齢70歳以上が34.1%、80歳以上でも1割を超えるという数字が示されている。これらをトータルで見ていくと、「高齢者夫婦世帯で、70歳を超えた妻が夫を介護する」という光景が、一般的な状況として浮かび上がってくることが分かる。
 気になるのは、主な介護者が「サービス事業者である」という割合が、わずか12%にすぎず、先に示した「配偶者」の半分にも満たないということだ。ちなみに、別掲されている「主な介護者の介護時間別構成割合」という調査結果では、要介護者の要介護度が最重度の5である場合、「ほとんど終日」という回答が52.7%に及んでいる。要介護以前と位置づけられる要支援2であっても、約1割が「ほとんど終日」という回答である。
 これらの数字が何を意味するのかは、改めて説明するまでもないだろう。つまり、在宅における介護は、介護者自身がいつ倒れるかもしれないというギリギリの状況に追い詰められており、その危機的状況に介護保険が機能しきれていないということだ。
 特に、要介護5ともなれば、中には体調が急変するリスクを抱えている人も少なくない。その緊張感を5割の一般家族が「ほとんど終日」持続しなければならないというのは、介護保険等の社会的なサービス資源がいかに不足しているかを示すものといえる。
●  家族介護者の限界
  こうした状況を反映していると思われたのが、やはり9月に東京ビッグサイトで行われた「国際福祉機器展」に足を運んだときである。毎年1回開催される国内最大規模の福祉機器展であり、当トピックスでもその年の展示傾向などをレポートしてきた。
 今回、特に印象的だったのは、介護者の介護負担を減らすための工夫が例年以上に目立ったことだ。例えば、車椅子からの移乗をスムーズにする回転式便座や、移乗介助を必要としないスライド式の座面を設けた車椅子のアイデア、さらには日本ではなかなか普及しなかったデンマーク製の移乗補助機器など。
 もちろん、人手不足に悩むプロの現場での導入も視野に入ってはいるだろうが、かなり年配の「一般来展者」の札をつけた人が、機器類の説明に熱心に聞き入っている姿も見られる。ブース担当の人の説明も、例年になく分かりやすく詳しいという印象を抱いた。
 つまり、家族介護者のニーズというものを、視野に入れる傾向が強まってきたといえる。高齢化し、体力的にも厳しさを感じやすい介護者にとっては、先のような機器類は今後もニーズは高まる一方であろう。
 だが、一方では、介護者がギリギリの状況に追い詰められやすくなっていることも確実である。家族のマンパワーに頼る時代は、いよいよ限界に近づいてきているともいえる。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.10.06
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