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再び悪化する健保組合財政
●  過去最悪の経常赤字を予想
  2008年度の改正健康保険法施行による前期高齢者納付金(旧退職者給付拠出金)の算定方式見直しを大きなきっかけとして、小康状態を保っていた健保組合財政は再び悪化し始めている。
 健康保険組合連合会が発表した2008年度予算の早期集計によれば、全1,502組合のうち1,334組合(89%)が経常赤字となるという。これにより全体の経常赤字は、6,322億円に達し過去最悪となる。あくまで予算であり、厳し目に予算を立てる健保組合も多いことから、実際の決算ではこれよりは赤字額が縮小するとみられるものの、巨額の赤字に転落することは必須だ。ここ5年間健保組合全体では経常黒字となっていたが、6年ぶりの赤字となる。
 グラフに示すとおり、90年代以降年々経常赤字額が拡大し、その都度、保険給付の自己負担割合を引き上げて赤字を解消してきた。1997年10月から自己負担割合が1割から2割に引き上げられ1996年度の2,000億円近い赤字からいったん脱している。2000年度は介護保険の創設によって医療費の一部が介護保険に肩代わりされて赤字が減少したが、その後再び増加、2003年4月に自己負担割合を3割に引き上げて経常黒字となった。2003年度以降は、健康保険法改正により老人保健拠出金が減額されたため、経常黒字が続いている。老健拠出金は健保の経常支出の25%を占めており、その増加が健保財政悪化の最大要因であった。2002年10月から老健拠出金の対象者の年齢が引き上げられて対象者が減少したことと公費負担が増えたこと、そして過年度に拠出した老健拠出金の精算戻りがあったことが黒字の理由である。
●  前期高齢者納付金が赤字の原因
  健保財政の悪化の主因は、各種拠出金の負担増である。これまでは老人保健拠出金(2008年度からは後期高齢者支援金と名称変更)の負担増が大きく、さらに退職者給付拠出金(2008年度からは前期高齢者納付金)が追い討ちをかける形であった。しかし、法改正により前期高齢者納付金が急増し、これが拠出金負担増の主因となっている。法改正によって名称が変わっただけでなく、その算定方式も見直されたためだ。従来は健保組合の規模に応じて拠出金額が決められていたが、それが傾斜配分方法に改められた。つまり、各健保組合加入者に占める高齢者の割合が低いと拠出が重くなる算定方式になった。また各健保の高齢者一人当たりの医療費が高いほど、さらに拠出が重くなる。よって加入者の平均年齢が若い健保組合は拠出金負担が重くなりやすい。
 拠出金負担増に対応するため保険料率を引き上げる健保組合も増えており、その結果、政府管掌健康保険の保険料率8.2%を上回ってしまうところも多く、214健保組合が上回っている。政府管掌より保険料率が高ければ健保組合を運営する意義に乏しく、そのため西濃運輸の健保組合のように解散するところも現れている。健保組合は政府管掌と異なり、独自の保健事業や付加給付を実施でき、ある意味福利厚生としての位置づけもあることからただちに解散が急増するとは考えにくい。しかし、健保組合は今後財政が好転する望みは今のところなく、健保組合存続の理由が問われることとなる。
出所:健康保険組合連合会「健保組合予算早期集計結果の概要」
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2008.10.14
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