>  今週のトピックス >  No.1729
地域における知的障害者の現状と課題
〜地域生活定着支援センターなど新たな動きも〜
●  国のビジョンと異なる現状
  先だってある市町村に出向き、自治体の委託事業で運営している「障害者地域生活支援センター」を訪ねた。障害者自立支援法が施行されて後、身体・知的・精神の三障害を対象としたサービスが統合され、同センターも障害の状態にかかわらず、当事者が地域生活を営むための相談援助を行っている。
  とはいえ、障害種別の相談件数はその3分の2が知的障害者(障害児)にかかわるものである。たとえ重度の知的障害があっても、施設入所ではなく、地域で生活をしながら作業所などに通いつつ自立を目指す──これが国としてのビジョンなのだが、現実はそう簡単にいくものではない。日中は作業所などで過ごすことはできても、夕方以降は同居家族の元に帰る。行動障害が激しい知的障害者などの場合、親などが近しい存在であるがゆえに思いをぶつけてしまうことが多く、同居家族の中には生活リズムが崩れると精神的・肉体的な疲労を抱えてしまうケースもある。
●  不足する社会資源
  結局、そうしたケースでは緊急のショートステイなどが家族にとっても本人にとっても大きな命綱となるのだが、地域によっては社会資源不足によってこのベッドがなかなか確保できない。私が訪問したセンターでは、相談援助を行う支援員が1人の利用者のために、片道1時間近く車を運転して、本人を隣接市町村のショートステイへと移送する光景に出会った。ショートステイだけでなく、それだけの距離を送迎できるような移送サービス資源も地域にはないからだ。
  その地域には、職員が24時間滞在するケアホーム(グループホームよりも重度の障害がある人を受け入れる共同生活の場)もあり、そこを「家」として地域生活を支援していくという体制も整えてはいる。だが、あくまで「家」であるため、定員数が限られ、しかも報酬単価が安いためになかなか戸数増やスタッフの増員が進まないのが現状だ。先のようなショートステイが見つからない場合、相談援助業務を中心とする地域生活支援センターが「受け皿」となって、センターの一角を「お泊り」の場にしているケースも見られる。
●  高齢化や生活困窮−より現状に即した方策を
  こうした受け皿が足りない一方で、「施設から地域へ」という移行が進んでから年月がたち、当事者はもちろん同居家族が高齢化しているという事態が大きな問題となりつつある。例えば、同居の親が高齢による疾患(認知症などという状況も多い)を抱え、ある日突然当事者が1人暮らしを強いられることになったなどというケースも増えている。そもそも親が相談支援を求めておらず、世帯の実態把握がなされないケースも目立つ。
  最悪の場合、当事者が生活に窮して万引きなどに手を出し、刑務所に入る。そして出所後に再犯によって刑務所に戻る──いわゆる「累犯障害者」といわれる人々も相当数にのぼるといわれている。そうした人々は、先に述べたように、親などが支援を求めていなかったケースも多いため、療育手帳も持たずに支援の手が行き届きにくい(法務省の調べでは、知的障害が疑われる服役者のうち、療育手帳を持っていたのは5%程度だったというデータもある)。実態は「刑務所」が受け皿にならざるを得ず、そうした人々は今後さらに増えていく恐れがある。
  そうした中、厚生労働省では、2009年度中に全都道府県に「地域生活定着支援センター」(仮称)を設け、服役中から年金給付の手続きやグループホームなど生活拠点へのつなぎを支援する方針を打ち出し、年末の概算要求に含めるという。現在、同センター設立のための研究検討会のワーキングチームが開催されており、その枠組みも徐々に完成しつつある。今後、発達障害者支援なども大きなテーマとなる中、こうした社会状況に即した方策をさらに広げていくことが求められている。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.10.20
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