>  今週のトピックス >  No.1747
中退共の現状
●  加入従業員数は増加中
  中小企業向けの退職給付制度である中小企業退職金共済制度に新しい動きが出てきた。
  50年近く前の1959年につくられた公的退職給付制度である。図表1に示すように制度発足以来加入企業数は右肩上がりで増えてきたが、バブル後の90年代後半になって企業数は頭打ちとなり、2000年度の421,708社をピークに減少傾向に転じ現在に至っている。
  一方、加入従業員数も右肩上がりの増加であったが、96年度の2,806,362人から減少傾向が続いた。しかし加入従業員数は2004年度から再度増加に転じ、300万人に迫る勢いである。直近(2008年9月末現在)における加入状況は、加入企業数377,824社、加入従業員数2,979,596人となっている。1企業あたりの平均加入従業員数は7.9人である。
●  解消しない繰越欠損
  バブル崩壊後の運用環境の低迷によって、中退共の資産運用も厳しさを増していた。中退共は予定利回りを保証しているため、予定利回りと実際の運用利回りの間に逆ザヤが発生している。2003年度末において中退共の年金資産は2兆9,886億円であったが、その一方で将来の退職金支払いのための責任準備金が3兆2,523億円に及ぶなどによって、繰越欠損金は2,673億円と年金資産の1割に近かった。こうした状況を踏まえて2002年11月には予定利回りが見直され、それまでの年3%が1%に引き下げられた。また実際の運用利回りが予定利回りを超えた場合に支払われる付加退職金についても極力凍結し、予定利回りを超える金額はできるだけ繰越欠損の穴埋めに回されることになっている。
  ちなみに2008年3月末での年金資産は3兆5,043億円であり、それに対して責任準備金は3兆6,506億円である。これを主因として繰越欠損金は1,553億円にのぼる。年金資産に対する繰越欠損金の比率は4.4%である。 加入企業数や加入従業員数の減少の背景には、予定利回りの低下による魅力の低下に加えて、欠損金の存在による制度自体への信頼性が低下していることがあったためである。
●  適年移行で加入者数増加
  こうした中で、加入従業員数が増加に転じたのは、2002年4月から適格退職年金からの資産の移換が始まったためである。それは2012年3月末で適格退職年金の存続が許されなくなることに対する措置である。 適格退職年金から年金資産が移換されて発足した中退共は、2002年度から2008年9月まで15,244企業、加入従業員数は435,313人に及ぶ(図表2)。移換企業においては1企業あたり28.5人となっており、中退共全体平均の7.9人を大きく上回る。これが、加入企業数が減りながらも、近年加入従業員数が増加している理由である。
  また適格退職年金からの資産移換を加速するため、2005年4月からは資産移換の制限が撤廃された。これまでは、過去10年分の勤務に相当する年金資産だけが移換でき、それを超える金額は移換時点で従業員に分配されてきたが、全額が移換できるようになり、移換の煩雑さが軽減した。
  また資産を移換する企業は予定利回り1%としている健全な資産である。そのため今後も資産の移換が続けば年金資産と責任準備金の差額は縮まり、欠損額も縮小することが予想される。
出所:中小企業退職金共済事業本部「適格年金制度からの引継申出件数(平成20年9月現 在)」
(可児 俊信 ベネフィット・ワン ヒューマン・キャピタル研究所所長、千葉商科大学会計大学院教授、CFP®、米国税理士、DCアドバイザー)
2008.11.25
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